PCI USA

PCI - Prosound Communications Inc

menu

 

ジョー・バーデンの秘密(その2)

 

ダニー・ガットンとの出会いとダブル・ブレード・ピックアップの考案

「世界で最も偉大で無名なギタリスト」ダニー・ガットン(Danny Gatton)がいなければ今日のジョー・バーデン・ピックアップは無かったでしょう。ダニーとの出会い、ダブル・ブレード・ピックアップ考案の事実を語ってくれました。

PCI:ピックアップを作る前は何をしていたんですか?

Joe:自動車のパーツ・ストアのマネージャーをしたり、住宅用電気設備の修理工などもしていました。それからスケートボードのパーツを設計したり、実際スケードボードのチームを組んでプロとしてもやってたんですよ。スケートボードの販売もやっていましたね。ピックアップを作る前一番長くやった商売はスケートボード関係でしたね。 

PCI:スケートボード・ビジネスでの経験がピックアップのビジネスでも役に立っていますか?

Joe:もちろんです。いつも自分が夢中でやっている好きなことで同時に儲からないかを考えていましたので。(笑) ダニー・ガットンにはある秘密のルートで自動車部品を調達していました。憧れのダニー・ガットンのために彼に喜んでもらえることでビジネスをしようとしたんです。彼は1932年フォードに乗っていたんですが、特別なパーツの調達ルートを僕は知っていたので滅多に手に入らないパーツを彼に供給していました。

PCI:ピックアップを作る前からダニー・ガットンを知っていたんですか?

Joe:そうです。ダニーには1975年1月に初めて会いました。ピックアップの生産を始めたのは1980年の4月ですから5年以上前から彼を知っていたことになります。 

PCI:ダニーとはどの様に知り合ったんですか?

Joe:ダニーのことは一人のファンとして前から知っていました。素晴らしいギタリストとして。

PCI:ギターは小さい頃から好きだったんですか?

Joe:そうですね。6歳の頃から6〜7年クラシックギターをやっていたので、ギターについてはずっと興味はあったんです。ティーンエージャーの頃、レコード屋で働いていまして、馴染みの客からダニー・ガットンのことを教えてもらい彼のテープを何度も聴いていました。忘れもしません、1975年1月5日、大雪の日でした。彼のコンサートをワシントンDCへ見に行ったんです。クラブへ入ると、大雪のため客は私以外に2人しかいませんでした。そこでダニーのプレイを目の前で見たんです。それは一生忘れることの出来ない驚愕の瞬間でした。彼のギタープレイ、テクニック、出てくるサウンドは恐らく他の誰にも真似することが出来ないであろう素晴らしい物でした。 

 

PCI:それでダニーとの付き合いが始まり、ピックアップを作ることになったんですね。

Joe:そうです。その頃僕はディマジオのピックアップを買って自分の67年テレキャスターにつけていました。ダニーはピックアップのリワインディング(巻き直し)をしていましたのでどうやって巻き直せばいい音になるか、そのディマジオのピックアップで色々と実験してみたんです。その頃のディマジオ・ピックアップでは、ボビンに出来るだけ多くワインディングする様作られており余分なスペースはありませんでした。すぐにこれはおかしいと気づいたんです。他にもっと良い音の出るテレキャスター・ピックアップで、ボビンにまだワインディング出来る余地のある物もたくさんあったからです。その中間で、ベストのサウンドになるワインディングの量を数々の実験の後に見つけました。また、ダニーなどが使っていたリワインディングされたピックアップの品質はたいへん悪かったんです。また見た目も最悪でした。それで、サウンドも見た目も良いリワインディング・ピックアップを作り始めたんです。新品のフェンダーのピックアップを$15で買い、全てのワイヤー・パーツをバラして綺麗にして、磨き、エポキシを使って組み建て直し、リワインディングしたんです。もちろん最初の完成品はダニー・ガットンに渡しました。

PCI:それはいつのことですか?

Joe:1980年の4月、ダニーのライブステージの合間でした。ポケットからピックアップを出して彼に差し出したんです。ダニーは「なんだ、これは?」と聞きました。「僕が作ったピックアップです。」と答えました。ダニーが「お前いつからピックアップなんかを作ってたんだ?」って聞くので「1カ月前から。」と答えました。ダニーは「そんなこと一度も今まで言わなかったな。」って言いながらすぐギターに取り付け試してくれたんです。しばらくしてダニーはこう言ってくれました。「これは今まで使ったどのピックアップよりもいいぞ。今日からお前は俺の "ピックアップ・ガイ" だ。」って。

PCI:ダニー・ガットン専属のピックアップ担当テックってことですか? 

Joe:そう。ダニーにはすでに色々な専属スタッフがついていてチームを組んでいました。ギターのフレット担当、車のメンテ担当など。僕はその日からギターのピックアップ担当スタッフに抜擢されダニー・ガットン・チームの一員になったんです。 

PCI:その当時ダニーはどんなピックアップを使っていたんですか?

Joe:普通のシングルコイルです。チャーリー・クリスチャンのピックアップをネック用として使っていました。テレキャスター・ネック・ピックアップは出力が弱く、ダニーはブリッジ・ピックアップと同様にストロングな物を望んでいたんです。ところが、チャーリー・クリスチャンのピックアップはテレキャスターのブリッジ・ピックアップより出力が大きかったんです。それでバランスが悪かったんですね。これを何とかしてくれとダニーに頼まれました。三カ月かかりましたがチャーリー・クリスチャンを改造して新しいテレ・ネック用ピックアップを作りました。 

PCI:それはダニーに気に入ってもらえたんですか?

Joe:あまり自信は無かったんですが、その新しいピックアップが付いたギターを弾きながら、ダニーが何度も僕の顔を見て頷いてくれました。新しい物を作ってそれが喜ばれる快感です。それを機会にメッキのことやピックアップの材料、品質、作り方についてダニーの仕事をしながら研究を続けたんです。 

PCI:その後、有名なダブルブレード・ピックアップの考案に至るわけですね。

Joe:そうです。そうそう、ここで巷で誤解されていることについて少々話しておきたいと思います。ダブルブレード・ピックアップの考案は1983年の春でした。誤解されている方がいるんですが、ダニー・ガットンとビル・ローレンスが会話をしている中でダブルコイルピックアップの話が出て、それをヒントに僕が考案したと言う人がいます。もちろんダニーとビルは良い友人で僕もダニーもビルのことは好きです。でも一度もピックアップのテクニカルなことでビルと話合ったことは無いんです。ダニー自身の頭にあるアイディアをヒントにしながら、僕がダブルブレード・ピックアップを考案したんです。 

PCI:なるほど。噂にはだんだん尾ひれがついて行きますからね。では、どういうきっかけで具体的にダブルブレード・ピックアップを作ったんですか?

Joe:その当時ダニーが使っていた僕のピックアップには大きな弱点があったんです。サウンドは良く出力も大きかったんですが、ノイズも大きかったんですよ。チャーリー・クリスチャンのピックアップと同様でした。ノイズ、ハムを抑えて欲しいとダニーだけでなく多くのお客さんから要望があったんです。ある日、家でぼんやりと自分の作ったストラトピックアップを眺めていました。シングルブレードの物です。そこで突然ふと思ったんです。「もう一つここにブレードを付けられないかな。ダメもとで、もう一つ付けるだけのスペースがあるかだけでも調べておこう。」って。それで寸法をチェックしてみたんです。そしたら2つブレードを取り付けた場合に必要なボビンのミニマムの厚さと実際自分が使っているボビンの厚さがピッタリ一致したんです。驚愕の瞬間でした。シングルブレードでベストサウンドになる様に作ってきたピックアップのサイズが、偶然ダブルブレードに出来るサイズになっていたんです! 

Joe Barden Guitarsのヘッドの形状の考案中のジョー

 

PCI:ボビンのサイズがピッタリだったのは偶然だったんですか?

Joe:そうなんです。この発見に興奮した後、地下の仕事部屋でだんだん不安になりました。お金はない、ビジネスのことは何も知らない、パテントのこともどうすればいいのか分らない、などなど。でも気を取り直して、ダブルブレードのピックアップを1個作りストラトに付けてみました。 マグネットのサイズもピッタリで、1時間余りで最初のプロトタイプが出来ました。そしてスーパーリバーブで鳴らしてみたんです。その時の興奮はどう説明していいのか、一生忘れることは出来ません。アンプのボリュームを一杯にあげ鳴らしてみましたが、本当に静かだったんです。レスポールの様にサスティーンをし、それでいてちゃんとストラトのサウンド、そしてノイズが無いんです。その瞬間からもうシングルブレード・ピックアップを作る興味がまったく無くなりましたね。(笑) 

PCI:それで、完全にダブルブレード・ピックアップの生産に切り替えたんですね。

Joe:そうです。ところがその後Eの弦(1弦、6弦)がブレードのコーナーから外れることに気づき、2本のブレードをずらして補正する必要に迫られました。そこでストラトとテレキャスターを8倍の大きな紙に書いてキッチンの床に置き、2本のブレードの正確な位置決めをしたんです。 

PCI:8倍の大きさで実際にストラトとテレキャスターの図面を書いたんですか?

Joe:原始的ですがドローイングペーパーを何枚も使ってテープで貼り付けてやりました。(笑) その時にストラトとテレキャスターのピックアップと弦のアングルも微妙に変える必要があることも発見しました。 

PCI:正式にはいつ市場に発表されたんですか? 

Joe:1983年です。 

PCI:ダニー・ガットン以外にはピックアップの開発に影響を与えたミュージシャンはいませんか?

Joe:エリック・ジョンソンですね。1991までの初期型のダブルブレード・ピックアップ(ストラト用)は、ネック、ミドル、ブリッジと3種類作っていました。他のメーカーと同様でした。ある時エリック・ジョンソンに会い、当時のストラト用ピックアップをつけた物でサウンドチェックをしてもらったんです。彼のサウンドチェックはユニークなのですが見たことありますか?

PCI:いいえ。どんなサウンドチェックなんですか? 

Joe:エリックは、サウンドチェックでは同じリフを延々といつまでも繰り返すんです。テスト用リフですね。僕のピックアップが乗ったギターはまったくノイズが出ないので、エリックだけでなく周りのスタッフもたいへん驚きました。そしてサウンドチェックの後エリックがこう言ったんです。「ネックピックアップはたいへん素晴らしいが、ミドルとブリッジの音がちょっと良くない。」「どういう意味ですか?」と聞くと、エリックは「ネック、ミドル、ブリッジとだんだんサウンドがブライトにならなくちゃいけないのに、逆にだんだんダークになっていくんだよ。」って言うんです。彼はそれを見事にデモしてくれたんです。彼の言う通りでした。エリックは「ネック用、ミドル用、ブリッジ用と3種類のワインディングでピックアップを作っているんだね。ネック用のサウンドが素晴らしいので、まったく同じ物を2つつけて試してみたい。」と言うんです。大至急家に帰ってネックピックアップと同じワインディングの物を作り、高さ調整をし、同じ晩に彼に渡したんです。すぐに試してくれました。そして、たいへん素晴らしいと満足してくれたんです。エリックにはサウンド面で、その後も色々なアドバイスを受けました。結局サウンド重視でその後、ストラトはネックとミドルは全く同じピックアップとしました。 

(プロミュージシャンの厳しい耳でジョー・バーデンのピックアップは進化して行きました。 次回はジョー・ペリー、ブルース・スプリングスティーン、ニルス・ロフグレンなどとの付き合い、アンプの開発などについての話です。お楽しみに!)

ジョー・バーデンの秘密(その1)はこちら
ジョー・バーデンの秘密(その3)はこちら

ジョー・バーデンの製品情報はこちら
Joe Barden Guitarsが発表されたNAMM 2003 情報はこちら
ジョー・バーデンの日本訪問記録はこちら