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2005年8月 8日
第5回:The Who "The Kids Are Alright(Movie)"
先日、行われたLive8をアメリカABCの放送で拝見しました。正直、20年前テレビで観た時のLive Aidほどの衝撃はありませんでした。 と言うのも、2時間枠と時間も限られており、1アーティストにつき1曲で、そのアーティストごとの選曲もありきたり(何度も耳にした個々のヒット曲)で、 20年前のものと比べると....... それと多少この音楽業界の裏側を知ってしまった自分には、幾つかのアーティストが偽善者にみえてきて、素直に観る事が出来ませんでした。でもこのメッセージ性のない音楽が飛び交う中、こういったコンサートを企画してくれた事が大変嬉しく思えましたし、 企画をしたBob Geldof(ボブ・ゲルドフ)のステージでのスピーチは説得力があり、この世の中について考えさせられるものでした。勿論、良いパフォーマンスをするバンドも多く、DVDの発売を待ちきれません。 元Eurythmics(ユーリズミックス)のAnnie Lennox(アニー・レノックス)がピアノで弾き語りた"Why"では、バックにアフリカの飢餓で苦しむ子供たちの映像を交えていて、なんとも感動的に歌っていたのが印象に残っています。 Pink Floyd(ピンクフロイド)の再結成は多くの音楽ファンを喜ばしたに違いません。そして多くのメディアの中で一番のパフォーマンスだったと言われたのがThe Who(フー)です。 今回はCD、レコードではなく、そのThe Whoの奇跡を追ったドキュメンタリー映画、"The Kids Are Alright(キッズ・アー・オールライト)"について語らせてもらいます。
The WhoはボーカルのRoger Daltrey(ロジャー・ダルトリー)、 ギターのPete Townshend(ピート・タウンゼント)、ベースのJohn Entwistle(ジョン・エントウィッスル)、そしてドラマーのKeith Moon(キース・ムーン)により1964年にイギリスで結成されました。 初期のThe Whoのアルバムからは50年代のロックや、60年代始めのJames Brown(ジェームス・ブラウン)を始めとするファンクやソウルの影響が見られます。 ちなみに彼らのファーストアルバム"My Generation(マイ・ジェネレーション)"にはJames Brownの"Please, Please, Please"が収録されています。 そんな彼らもアルバムを重ねるごとに実験になって行きます。 The Beatlesの行ったようにサイケデリックになったり、またアルバム"Tommy”では同名の映画のために作られたロックオペラなるコンセプトアルバムを作ったり、そして"Who's Next”で聴かれるシンセサイザーを画期的に使った事などで彼らの音楽性の豊かさを開花して行きます。
The Whoがデビューした頃のイギリスでは、The Beatles(ビートルズ)に続けと多くのバンドで溢れてました。 The Whoもその多くのバンドの一つでしたが、The Beatlesとの大きな違いは彼らのパワフルさでした。第三回に書いてある様、彼らはパンクの原点とも言われていたくらい、その荒々しさは当時のバンドの中では異例でした。ステージでのパフォーマンスは、後に彼らに影響されたパンクバンドと比べても、はるかに暴力的で野生的だったと思います。 Rogerは叫ぶように歌い、マイクを振り回し、 Peteは踊ったり腕をぶんぶん降ってギターを弾き、終いにはギターを壊すし、Keithはタムタムを弾きまくり、ドラムをメチャクチャにします。ただ、Johnだけがベースを黙々と弾き、時々歌ったりもしています。この映画を見ていれば分りますがそのエネルギーの出し方は他のバンドではあまり見られないと思います。彼らがパンクの枠から外されている要因に彼らの音楽性、そして演奏力があった事からだと思われます。 昨年のAerosmith(エアロスミス)との来日公演でそれを目のあたりにした人も多いでしょう。
この映画のオープニングを飾るのがThe WhoがアメリカのコメディーTVショー、"the Smothers Brothers Comedy Hour"に出演した時の模様です。 演奏した曲は彼らの初期の名曲、"My Generation"。ちょっと変ったバンド紹介で始まり、その曲の終わりにはKeithのベースドラムが爆発したのです。それが起こる事を知らされていなかったPeteはドラムの直ぐ側に立っていたため、それとKeithが火薬の量を入れすぎたの事により、その爆風で Peteの髪の毛はめちゃくちゃになり、その爆音によりしばらく片方の聴力を失われたそうです。 その直後、司会者のTom Smotherが唖然とした顔をしてフォークギターを持ってPeteに近づくと、Peteはそれを奪い取り、床に叩き付け、Tomも一緒になって壊し始めます。 その後も幾つか彼らがコンサートでギターとドラムを壊す映像が観られます。 宿泊先のホテルでも大暴れしていたようで, 幾つかのホテルではthe Whoに対しての注意書きがある所や、コンサート会場から彼らへの破損品に対する請求書等も観られ、彼らがいかに野生的なバンドだったことが伺えます。
The Whoのファンになった人にたまらないのが、60、70年代のコンサートがダイジェストで観る事が出来ます。 何といっても"Won't Get Fooled Again"のライブには圧巻!エンディング直前にRogerが「イヤエ--------------------------ィ!」と叫ぶ所で、Peteがカメラに向かってスライディング。こんなカッコイイバンドがあって良いのだろうか。 鳥肌が一生残ってしまうかと思ったくらい感動しました。 嘘だと思ったら観てみてください。少なくとも「カッコーイイー!」とは思うはずです。 楽しさが伝わって来るスタジオでの録音風景も入っています。プロ(端くれですけど)として言わしてもらいますと、ほとんどのスタジオ風景と言うのは実際に録音している事はなく、そのために歌ったり演奏しているふりをしているだけなのです。ただ実際の録音時の休憩時間等に取っている事も多く、実際に使っているスタジオや器材のセッティングを利用しているケースも少なくはありません。彼らも例外ではないと思います。
インタビューも交え、彼らのデビュー当時からこの映画が上映されるまでの'70年代後半まで彼らの成長ぶり(?)と、彼らの音楽が変って行っている事も伺えます。例えば、"My Generation"から"Who Are You"を聴いて頂けると、音の違いや曲の雰囲気の違いで時代背景などが聴き取れます。選曲もよく、言うなればベスト盤ともいうべき映画でもあります。インタビューに関しては、Pete、John、Johnはまじめに答えていますが、とにかくKeithははちゃめちゃです。突然、服を脱いだりもしています。 Ringo Starr(リンゴスター)も友情(Keithの飲み友達?、彼もアル中の時期がありました)出演しています。RingoとKeithが酔っ払ってインタビューに答えている所もあります。Rogerが言っていた「ロックンロールにはなんの保証もない、やりたい事やるだけさ」(の様な事)を言っていたのもバンドの姿勢を感じさせ、いかにもthe Whoらしい事を言っていると思いました。後に、幾つかのアメリカのTV番組の監督や脚本家を勤める事となるJeff Stein(ジェフ スタイン)がそれらをうまく編集しています。 The Whoを知らない人も十分楽しめると思います。
残念な事に、'78年、ドラマーのKeithはこの映画の公開を前にして、アル中、薬物中毒のリハビリの為に飲んでいた薬の量を間違え、そのまま床につき帰らぬ人となってしまいました。そしてベースのJohnも2002年に心臓発作のためラスベガスで死去しています。 それでも今なお、残った2人は元気いっぱいステージを暴れまくっています。 40年の歴史を持ったバンドは多くありません。 そんな彼らを観れるLive 8のDVDが待ち遠しく思っているのは自分だけでしょうか? かれらの歴史が観れるこの映画は、「ライブとは何たるものか」とか「型にはまったものがどれだけつまらないか」とか訴えているようにも思えます。
去年の夏、アメリカではここ数年で最悪のコンサートの売り上げを記録したそうです。 その中の幾つかはキャンセルになる始末。商業的になりすぎてファンの気持ちを考えずに動いている音楽業界が送り出す見せかけだけのバンドや歌手はライブを見に行っても面白くなく、当然の結果だと思います。バックバンドがいなかったり(カラオケと同じ状態)、クチパクだったりと... 勿論、いいバンドも沢山いますが... そんな中、最近のアメリカのテレビから「Old is new」と言う言葉を耳にします。それは最近の若者が60年代、70年代の音楽を再確認して聴いている事から来ています。最近の"いんちき臭い"音楽に飽きてきた世代の子供たちが、映画やコマーシャルから流れてくるthe Who等の名曲(アメリカでは第四回のELOとthe Whoの曲はかけまくられています)を聞き単純に「良い」と思うのも当然の事だと思います。この映画を観てライブでの楽しさを色々なバンドに勉強してもらいたいものです。 そして多くのファンがライブに足を向ける事を願います。
トシ・カサイさんのプロフィールはこちら。
トシ・カサイさんのJINAでのインタビューはこちら。
トシ・カサイさんは下記↓のミュージシャン達と仕事をしてきました。
Toshi Kasai: Audio Engineer / Producer / Song Writer
Worked with or Credit on Albums of:
Altamont, Eddie Ashwroth, Jello Biafra, The Black Watch, Bloodhound Gang, The Boneshakers, Capitol Eye, Crush Radio, Danzig, Gavin DeGraw, Phill Driscoll, Eastern Youth, Mark Endert, The Exies, Robben Ford, Foo Fighters, Robert Fripp, Hangface, Dan Hicks & His Hot Licks, Adam Jones, Rickie Lee Jones, Kool Kieth, Eddie Kramer, John Kurzweg, Randy Jacobs, Less Than Jake, Lustmord, Dave Matthews Band, Maroon 5, Melvins, Bette Middler, Nehemiah, Willie Nelson, Ours, Mike Patton, Pimpinela, Puddle of Mudd, Willian Reid, The Road Kings, Sepultura, Matt Serletic, Son Y Clave, Splender, Sprung Monkey, Sugar Bomb, T-Square, Taxiride, That's What You Get, Tool, VAST, The Ventures, Mike Ward, Sound Tracks: Dude, Where is My Car?, Gran Turismo 2, Polar Express.
投稿者 admin : 2005年8月 8日 16:57