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2004年12月19日

第2回:"It Happened One Bite" by Dan Hicks

dannhicks.jpg


1) Cruizin'
2) Crazy 'Cause He Is
3) Garden in the Rain
4) Boogaloo Jones
5) Cloud My Sunny Mood
6) Dizzy Dogs
7) Vinne's Lookin' Good
8) Lovers for Life
9) Collared Blues
10) Waitin'
11) Reveille Revisited
12) Mama, I'm an Outlaw
13) Boogaloo Plays Guitar

私事で恐縮なんですが, 自分はDan Hicksと仕事をした事があります。 Dan Hicksと言えば68年にDan Hicks & His Hot Licksをサンフランシスコで結成して以来いまだ現役で、 日本でもなかなかの人気を持っているフォークシンガーです。 80年代はあまりレコーディングを行っていなかったDanが90年代後半にSurfdog Recordと契約し、久々のアルバム"Beatin' the Heat"を発表したのが2000年。 自分はそのアルバムの制作に参加させてもらいました。 でも, 今回紹介したいアルバムは1978年に発表された"It Happened One Bite"です。

恥ずかしい話, 自分はDan Hicksと仕事をやる前は名前しか知らず、Danの音楽を聴いた事がありませんでした。 でもDanと仕事をするにあたって彼の音楽に惚れ込み大ファンとなったのです。

そんなある日、DanがプロデューサーのGary Hoey (90年代に凄腕ソロギターリストとして活躍。90年代初め自分の神的存在である、Brian Mayの前座として来日も果たす。)にあげようとスタジオに持ってきていたCDが、その"It Happened..."だったのです。 その時Garyの隣にいた自分の顔を見て、「このCDはToshiに上げよう。 Garyにはまた後で持ってくる。」と言い自分にくれたのです。 そしてそれが日本盤であり、日本語で書いてあるCDの帯を示して,「"これを知らなきゃフォークファンじゃない"って書いてあるんだろ?」と自分に尋ねてきました(帯に日本語で書いてあった宣伝文句を誰かに訳してもらったらしい)。 彼が指差していた所には"(株)ワーナーミュージック・ジャパン"と書いてあり、つまりまったく違う場所を指差していたのです。それを彼に話すと「知っていたよ、Toshiが日本語読めるかテストしただけ。」と冗談を言っていました。 そのCDの封を開け彼にサインをしてくれるよう頼むと、「ここに書いてあるじゃないか!」とCDタイトルの名前を示し面倒くさそうサインをしてくれたのも覚えています。

そんな口を開ければ冗談ばかりのDanの音楽というと、やはり歌詞の内容も冗談ばかりなんですが、曲調がお洒落。 幼い頃はカントリーミュージックを聴いて育ち、やがてスイングジャズを崇拝するようになったDanの音楽を聴いていて不愉快になる人はあまりいないと思います。

この"It Happened..."は元々Ralph Bakshiのアニメのサウンドトラックとして作られ、13曲中12曲がDanのオリジナルで、3)だけが1920年後半に作られ、Frank SinatraやSarah Vaughanまでもが歌っていたスタンダードの一つ。 ちなみにRhinoが2002年に再発売したアメリカ盤は9曲のボーナストラックが入っています。 自分はそれを聴いたことがないので, 聴いた事ある方感想を聞かせて下さい。 でも生産数がかなり限られていた為, 入手は困難だと思います。

やはりアルバム全体がアニメを意識した曲作りになっているのが分かります。 ほとんどの歌詞が物語口調になっています。 コミカルな6)はカズーを生かして 主人公があわただしく走っているシーンなどを想像させます。 9)は口笛ならぬ歯笛とスキャットがメロディーになっていて 主人公が町をぶらぶら歩いているシーンかなにかで使われそうな曲です。楽曲的にはDanの持ち味アコースティックギターを中心に、それぞれの楽器の持ち味を出す様にとシンプルに作られているのが分かります。 4), 5), 13)等のジャズっぽい雰囲気を出すのにエレキピアノやクリーンエレキギター、 西部劇調の12)にはバンジョーと楽器の使い分けの工夫も見られます。

そして忘れてはならないのがバイオリンです。 このアルバムのバイオリンのSid Pageは元々初期のHot Licksのメンバーなんですが、後にバイオリン奏者、コンサートマスター、ストリングスアレンジャーとしてB.B.King, Earth, Wind & Fire, Joe Cocker等(上げていたらきりが無い)の売れっ子たちとの仕事を経ていまだに大忙し。 最近は映画のサウンドトラックの制作に力を入れているみたいです。 そのSidの弾くバイオリンは, (自分も"Beatin'..."のレコーディングで目の当たりにしました。)存在感があり、それでいてボーカルや他の楽器の妨げにならない味のある演奏です。 仕事柄何人かのバイオリン奏者を観てきましたが、その中でもずば抜けていて本当にユニークな演奏します。 このアルバムでもSidの演奏が聞ける事も嬉しい事です。

そして裏方人達がまた贅沢なんです。プロデューサーのTommy LiPumaはGeorge Benson, Natalie Cole, Miles Davis, David Sanborn, Barbra Streisand, と(これまたきりがない)ジャズ, スタンダードを中心に活躍している大物。 音楽業界の仕事についたのは1920年代からで、60年代からのプロデューサー活動は目を見張るばかり。グラミー賞でのノミネートの回数が30回。 1999年からThe Verve Music Groupの会長としてレベールを動かす事に専念しています。そのTommyのプロデュースはDanの持ち味を失わずによりジャズっぽく作っている為、普段のDanのアルバムより品を増した様にも感じられます。 そしてエンジニアを勤めたAl SchmittはGeorge Benson, Henry Mancini, Steely Danとの仕事で名を上げるとともにthe Jefferson Airplane, Jackson Browne, Sam Cookeをプロデュースした事でも有名です。 Alもまたグラミー賞受賞を7回、Alがたずさわってゴールド(アメリカでの売り上げ50万枚)プラチナ(100万枚)のアルバムが150種類以上あります。 Alのレコーディングの技術は19歳の時、 巨匠 故Tom Dowdのもとで働く事によっていっそう磨きをかけ、今なおその腕は多くの人々に頼りにされています。そのAlはDanのギターはもちろん、すべての楽器の音の暖かみを失わないよう録音,ミックスしています。 この豪華な二人の制作とDanのユニークな音楽、悪い物ができるはずが無いです。

ちなみに"Beatin' the Heat"もお勧めのアルバムです。"Beatin'..."は"It Happened...”とはうってかわってドラムループやサンプル等を少々導入したり、ボーカルにエフェクト効果をかけたりと"最近の音"を多少意識して作られてます。曲調もどちらかというとロックより。大きな違いは何といってもゲストミュージシャン達です。 Brian Setzerがギターで、Elvis Costello, Richie Lee Jones, Bette MidlerそしてTom Waitsがボーカルで参加しています。 ドラマーも売れっ子スタジオミュージシャンで元David Lee Roth BandのGregg Bissonette。 そして先にも書きましたがSid Pageが久々Hot Licksの一人としてバイオリンを弾いているのも嬉しい事です。 "最近の音" ロックが好きな人にはこちらの方が好きになるかも知れません。

昨年60歳になりそれを記念したライブを収録したDVDがSurfdogから出ています。 彼のライブは評判が良く、71年のライブアルバム"Where's the Money?"(これもTommy LiPumaのプロデュース)は彼の代表作で彼の知名度高めたほどです。 自分も3年前コンサートに誘っていただき見に行きました。 1曲目が終わった後「そろそろ休憩を取ろうと思っているんだが...」と相変わらずの冗談ぶり。 お洒落で冗談の聴いた音楽は35年以上のキャリアから変っているようには思いません。 日本にも良くライブに行くのでチャンスがあれば行ってみると良いでしょう。 Danが"Beatin'..."の"彼の感謝"の欄の最後に「至る所の音楽ファンにもっとも感謝する。」と書いてあるとおり、音楽好きには嫌いにはなれないのがDanの音楽だとおもいます。 お試しあれ。

トシ・カサイさんのプロフィールはこちら

トシ・カサイさんは下記↓のミュージシャン達と仕事をしてきました。

Toshi Kasai: Audio Engineer / Producer / Song Writer
Worked with or Credit on Albums of:

Altamont, Eddie Ashwroth, Jello Biafra, The Black Watch, Bloodhound Gang, The Boneshakers, Capitol Eye, Crush Radio, Danzig, Gavin DeGraw, Phill Driscoll, Eastern Youth, Mark Endert, The Exies, Robben Ford, Foo Fighters, Robert Fripp, Hangface, Dan Hicks & His Hot Licks, Adam Jones, Rickie Lee Jones, Kool Kieth, Eddie Kramer, John Kurzweg, Randy Jacobs, Less Than Jake, Lustmord, Dave Matthews Band, Maroon 5, Melvins, Bette Middler, Nehemiah, Willie Nelson, Ours, Mike Patton, Pimpinela, Puddle of Mudd, Willian Reid, The Road Kings, Sepultura, Matt Serletic, Son Y Clave, Splender, Sprung Monkey, Sugar Bomb, T-Square, Taxiride, That's What You Get, Tool, VAST, The Ventures, Mike Ward, Sound Tracks: Dude, Where is My Car?, Gran Turismo 2, Polar Express.

投稿者 admin : 15:49

2004年12月15日

第1回:"A Night At The Opera" by Queen

自分は日本語での文章が得意ではありません。 かと言って英語が得意な訳でもありません。ただ音楽は大好きなのでこの企画をPCIさんに持たしてもらいました。PCIの読者の皆さんに聴いていただきたいアルバムを紹介するのとともに, 自分の友人のミュージシャン等が影響された, または彼らが皆さんにお勧めしたいアルバムをこれから紹介していきたいと思ってます。

第一回と言う事で今回は自分の一番好きなバンドのお勧めのアルバムを紹介したいと思います。 決めるのに時間はかかりませんでした。

Queenの"A Night At The Opera", 邦題が"オペラ座の夜"。 1975年に発売されたアルバムです。

queen.jpg


1). Death on Two Legs (Dedicated to...)
2). Lazing on a Sunday Afternoon
3). I'm in Love With My Car
4). You're My Best Frien
5). '39
6). Sweet Lady
7). Seaside Rendezvous
8). Prophet's Song
9). Love of My Life
10). Good Company
11). Bohemian Rhapsody


自分が学生の頃, 友人の薦めで聴いてみたのですが、 初めはピンと来なかったのが正直な感想です。アルバム全体にまとまりがないと思っていたのか、直ぐには好きになれなかった覚えがあります。 でも今はその"まとまりの無さ"、よく言えばバラエティーに富んでいるところが何ともいえません。 最近のバンドのアルバムではまずありえない事ですよね。 最近のバンド, グループはジャンル分けされる事を強いられ、アルバム全体が似たような曲でまとめられているのが常識(?)ですよね。 その点この"A Nihgt..."はBeatlesのThe Beatles(ホワイトアルバム)にも共通して, The WhoやKinksがやったロックオペラとはまた違った"オペラ"アルバムです。

もし全12曲を一言ずつで表すのならこうなるのではないでしょうか:ハード、 楽しい、ハード、楽しい、楽しい、ハード、楽しい、ヘヴィー、可愛らしい、楽しい、ワケワカンナイ、そして愛国心。 本当に激しい曲から静かな曲まであります。 2)、7)はイギリスのフォークソング、トラディショナルソングを思い浮かべさせるし、12)に関してはイギリスの国歌のカバーです。 しかも歌詞の内容もまちまちで、1)は彼らの元マネージャーのことを皮肉っていたり、4)と9)がラブソングで、5)、8)、11)のそれぞれが物語にもなっています。 11)に関しては言わずと知られた彼らの代表曲で、 人を銃殺した死刑囚が死刑台に行くまでを語っています。 このように曲調、歌詞もそれぞれ異なりながらもアルバム全体に違和感を作らずに仕上げているところがすばらしい。 例えばコンサートでも通用するような流れを持つ1)、2)、3)の曲間、激しい曲からスローなラブバラードに展開する8)と9)のトランジションはQueenならでは。ベスト盤では絶対に聴く事のできない楽しさだと思います。

プロデューサーのRoy Thomas Bakerはこのアルバムを機に70年後半から80年代にかけて、 The Cars, Cheap Trick, Devo, Foreigner, Journeyのアルバムにプロデューサーとして大忙し。ただこのアルバム以上の出来を持つアルバムに彼は参加していないと思えるのは自分だけでしょうか。音作りの面でも色々な楽器を使ったり、オートメイション(音量操作等の自動操作)、パニング(ステレオ音源での左右操作)を生かしていたミックス、と聞き手を曲自体以外でも楽しませようという作り手の気持ちが伝わってきます。例えば、このアルバムからのもう一つの代表曲でもある4)は、ベースのJohn Deaconがエレキピアノを弾いたり、7)ではカズー等のおもちゃの楽器を使ったり、ピアノを二重に録音していたり、10)に関してはギターの Brian Mayがウクレレ、バンジョーの生音とクラリネットに似せた彼のギターと1曲1曲に違いをみせようとする工夫が見られます。 2), 10), 11), そして12)で聴けるBrainのギターハーモニーはQueenの音作りでもっとも重要なものの一つです。

そしてQueenのもう一つの持ち味と言うべきパニングを生かしたボーカルハーモニーは、他のバンドが真似する事のできないQueenの"特許"とも言うべき物になっています。 メインヴォーカルのFreddie Mercuryはもちろんの事、ドラマーのRoger Taylarのヴォーカルも3)でのメインボーカル、そして他の曲でのバッキングボーカルとして際立っています。 5)に関してはBrianによるメインボーカルを中心として、Rogerの高音のバックヴォーカル、Freddieを加えたその3人による幻想的なハーモニー。 8)と11)についてはFreddieを中心とした重圧のあるボーカルハーモニーには彼らの音楽性の豊かさを感じさせられます。

でもやはり曲が良くなければいくら録音、ミックスに凝っていても聴いている方は面白くないですよね。 このアルバムに関してはその心配をする必要がありません。 4人のメンバーそれぞれが曲を提供していて、それぞれの異なった個性が出ていています。 ロック好きのRogerが書いて歌い, そしてQueenのライブでは欠かせなくなった3)。 Johnが書いて大ヒットしたラブソングの4)。
Brianは5)、6)、8)、10)を提供し、彼のソングライターとしての存在感をアピールしたと共に、彼の色々な音楽へ対する尊敬さえもうかがえます。そしてFreddieが天才または奇才といわれるのは、名曲11)を聞くだけでも分かりますが、Brian同様、彼が音楽好きである事を証明出来るアルバムでもあります。ハードロックの好き、ポップの好き、フォーク好きな人と色々なリスナーが楽しめるアルバムでもあります。

CDは東芝EMI盤をお勧めします。 アメリカのHollywood Recordの輸入盤には2曲のボーナストラックが入っていますが、意味のないリミックスになっているのとともにアルバムの流れ無視して、後味の悪い終わり方になっています。 ちなみに5.1サラウンド盤も出ています。
1973年から1991年の11月24日のFreddieの死去まで、Queenは14枚のスタジオアルバムを作りました。 この"A Night..."はその中の4作目です。 この他にも"Sheer Heart Attack", "News of the World", "Jazz"と, お勧めしたいアルバムがあります。 正直なところどれについてに書こうか迷いました。 Queenをご存知の方は多いと思いますが、ベスト版しか持っていない方も多いと思います。 是非お試し下さい。

このようにこれからどんどんアルバムを紹介していきたいと思います。 リクエスト質問等ありましたら、toshimanaki@hotmail.com まで。

トシ・カサイさんのプロフィールはこちら

トシ・カサイさんは下記のミュージシャン達と仕事をしてきました。

Toshi Kasai: Audio Engineer / Producer / Song Writer
Worked with or Credit on Albums of:

Altamont, Eddie Ashwroth, Jello Biafra, The Black Watch, Bloodhound Gang, The Boneshakers, Capitol Eye, Crush Radio, Danzig, Gavin DeGraw, Phill Driscoll, Eastern Youth, Mark Endert, The Exies, Robben Ford, Foo Fighters, Robert Fripp, Hangface, Dan Hicks & His Hot Licks, Adam Jones, Rickie Lee Jones, Kool Kieth, Eddie Kramer, John Kurzweg, Randy Jacobs, Less Than Jake, Lustmord, Dave Matthews Band, Maroon 5, Melvins, Bette Middler, Nehemiah, Willie Nelson, Ours, Mike Patton, Pimpinela, Puddle of Mudd, Willian Reid, The Road Kings, Sepultura, Matt Serletic, Son Y Clave, Splender, Sprung Monkey, Sugar Bomb, T-Square, Taxiride, That's What You Get, Tool, VAST, The Ventures, Mike Ward, Sound Tracks: Dude, Where is My Car?, Gran Turismo 2, Polar Express.

投稿者 admin : 15:43