2007年5月 9日
第5回:LA オーディション
ご無沙汰してしまいました。
ひさしぶりのコラムでは、自分がMIの生徒さん等から一番聞かれる、ロスでのオーディションについて書きましょう。
もちろん質問がある方、あるいはもっと違う経験談がある方、是非ご意見を下さい!
我々「地元人」ではないミュージシャンの一番の仕事の窓口はオーディション。
ロスは世界のエンターテイメントの首都とも言われています。主流のレコード会社をはじめ、TVや映画スタジオ、プロダクション、タレント・エージェント、マネージメント会社が集中しています。そしてバンドメンバー、ツアーサポート、テレビや映画のミュージシャンの役など、大小に関わらず様々なオーディションが随時行われています。
音楽学校に所属していれば Student Career Serviceに相談したり、エージェントを見つけたり、又、個人でもCraigslist.orgなどのコミュニティー・ウェブで大きなプロジェクトのオーディションを見つける事が出来ます。テレビや映画にはMusic Castingという独立した担当部署もあり、一度そのテレビ局やキャスティング・エージェント主催のオーディションを受けるとその担当のリストに載る事が出来ます。特に多くの特徴を持っているとオーディションの知らせが良くきます。例えば自分は「ドラマー、ジャンル別OK、楽譜OK、女性、東洋人(日本人)、日本語を話す、英語を話す」などとデータに入れられているので、「東洋人の楽譜を読める女性ロック・ドラマーが必要」などとキャスティングからの問い合わせがあれば、ばっちりという訳です。(中々ないのですが。。)
<オーディションの一番大切な心構え>
「上手」である事は当たり前!!。
ロスのミュージシャンの競争率は半端なものではありません。
理解する必要があるのは、「上手」なミュージシャンを見つけるのにオーディションは不要という事。オーディションでは「上手」で当たり前、その上でルックス、イメージをチェックされます。そのプロジェクトに必要な要素を持っているミュージシャンを探している訳ですから、自分の年齢、背格好や人種など、正直どうにも変えられない要素が相手のニーズにぴったり合うかというだけで、 最後の絞り込みの段階になるまでは、個人の実力と人柄等は問題にならない事が殆どです。
(逆に言えば、オーディションに落ちても「実力が無いのか。。」と落ち込む必要は全くないと言う事でもあります。)
<自分の最初のLAオーディション>
ロスでの最初のオーディションは音楽学校(MI)からの紹介でした。
人気トーク番組のハコバン(Host band)で、番組のプロディーサー側からの要望は「R&B系の女性ミュージシャン。全パート募集。」という事でした。
オーディションの課題曲はStevie WonderのHigher Ground。
学校から事前にオーディションの予約を入れてもらい、課題曲はハリウッッドにあるテープ・ダビング専門店に自分でピックアップしに行きました。(当時はまだMP3やダウンロードは主流ではありませんでした。最近では全てMP3でEmailされるのが殆どです。)
<CATTLE CALL(一時審査)>
当日は 友人から借りた車にスティックの他、念の為にとスネア、シンバルとペダルを積んでハリウッドから車で10分程のTV収録スタジオが集まるバーバンクへ 。
スタジオのゲートで身分証明書を見せ、駐車場とスタジオ番号を教えてもらって中に。
指定のスタジオに辿り着くと楽器を片手の女性ミュージシャンが50人程通路に並んでいました。何でも2日間に渡り、300人近くがオーディションを受けるとの事でした。 通路では配られたアンケートとプロフィールに記入。質問の内容は楽器の演奏経験、好きなジャンル、自分の今後のスケジュールなど。(ちなみに年齢、人種や体重等は「差別」と訴えられる事を懸念して書かれていない事が殆どです。)
(当然ここで英語が解らないとちょっと問題。演奏のオーディションでも、英語が苦手な人は必ず辞書を持って行きましょう。稀ではありますが、大きなプロジェクトでは英語が苦手でも雇ってくれる事はあります。前もって相談し、通訳の同行が可能か聞いてみる事もできるでしょう。自分はある映画のシーンで必要な「アジア人バンド」のオーディションを受けた際、英語はいらないが、日本語が話せるのかと聞かれました。)
プロフィールをADさんに渡し、ポラロイドでパシャリと全身の写真を取られ、それがアンケートとプロフィールに付けられてプロデューサーのテーブルへと持って行かれます。
プロデューサー側で即席のバンドが組まれ、呼ばれた順番にスタジオ内に。
10分程のセットアップ時間をもらい、スタジオにセットされているドラムセットにスネアとペダルの取り付けにかかりました。ここでまず気付いたのは、いらないと言われていたにもかかわらず、ドラムセットにはスネアが無かった事。何でも朝ヘッドが破れ、スペアが無いとの事でした。(滅多に無い事ですが。。)持って来て良かったなと思いつつ急いでセットアップしました。
その間、ギターリストがアンプの設定が解らないのか、ジャカジャカ騒音を立てまくり、5分程してから演奏前に退場となりました。変わりのギターリストはサクッと2分程で音設定を済ませて準備万端。ベーシストも準備万端。ドラムも準備万端。キーボードも準備万端。 テストカメラが周り初め、ドラムが曲をカウントするようADさんから指示が出ました。
緊張を振り切り、オーディション鉄則の2小節カウントで。。
" One..., Two..., One, Two, Three ,Four!! " THUMP!!! (バタン!)
何かと思いステージ前を見ると、キーボーディストが緊張のあまり気を失って倒れていました。ここで大切なのは、それでもギター、ベースとドラムは演奏を続けた事!
最初のサビの所でプロシューサー側から演奏ストップの指示があり、とりあえずストップ。キーボーディストはスタジオから担ぎ出され、このままキーボードは無しという事で、3ピースでオーディションが進められました。Higher Ground を演奏した後は、簡単なジャムをするよう指示があり、ベーシストがファンク・リフでのジャムを始めました。2分程のジャムをADさんの「まき」の指示に従って締め、オーディション完了でした。
(ここで自分が何より実感したのは、「上手で当たり前」という事。チューニングの出来ていないギターリストやベーシスト、間違ったテンポでカウントを始めたドラマーなどは演奏前にどんどん退場させられました。緊張は当然言い訳にもならないし、何より本番に強いのが大切。どんなハプニングでも、演奏を続ける根性が大切。“Show must go on" です。)
ステージを降りる際、次ぎのドラマーはスネアを持って来ていなく、大パニックに。小声で“PLEASE...."と頼まれ、" OK." とスネアを貸しました。ここでびっくりした事は、ADさんが彼女に「スネア持ってなかったの?」と聞いた所、即返で「ううん。あたしのを貸してあげただけ。」の一言が。。
絶句しました。それでも彼女の演奏後、そのADさんは「君のでしょ?」と直ぐに自分にスネアを手渡しに来てくれました。彼女はそれを横目に非常にバツの悪そうな顔をして去って行きました。
<CALL BACK(二時審査)>
3日程して自宅の電話が鳴り、一時審査合格と二時審査の知らせがありました。
滅多に無い事ですが、この時電話をくれたADさんから助言を頂きました。
何でも自分は演奏はばっちり、本番に強いのもグッド。でももう少し「グラマー」が必要との事でした。つまり、「ちゃんと化粧して、かっこいい服を着て来るよう」との事。
2日後のCall Backに備え、メルローズで一生懸命洋服を選び(と言ってもTシャツを買った位。)、自分はスッピン派の為、化粧道具は友達に借りました。貧乏学生だったので結構大変でした。当日はメイク学校に通う友達にメイクをしてもらい、前回と同じBurbankのスタジオに再度向かいました。Call Backでは各パート5名程に絞られていました。
ここで何と遭遇したのがCindy Blackman!
笑顔が眩しくて、とてもとても素敵な人でした。でも正直「Cindyがいるなら、自分は絶対無理でしょう。。。」と思って項垂れていた所、Cindyは通りがかりに自分のスネアを見て、“Oh, drummer! Good Luck!”の一言をくれました。滅茶滅茶嬉しかったのを覚えています。
(後で知ったのですが、CindyはLenny Kravitzのツアーを控えていたので、プロデューサーが嘆願したものの、Cindy側からは既にお断りがされていたとの事。それでも彼女のイメージに近いドラマーを見つける為、その基準となる映像を録る為にだけスタジオに来ていたそうです。)
ステージは前よりもきちんとセットアップされており、照明も各ミュージシャンにスポットされていました。自分は髪が顔にかかっていると注意を受けて、慌ててポニーテイルに。カメラを回り、一次審査と同様にHigher Groundと、ジャムの演奏をし、あっけなく終了。
さすがに二次審査に参加したミュージシャン達は全員「上手」で容姿もばっちり。オーディションのテンポも早く、演奏はさくさくっと終わりました。
ニ次審査では一次審査よりもライバル意識が少なく、控え室ではお互いの情報を交換しネットワークしました。この時に知り合ったミュージシャンでは5人程その後、別の現場で一緒に演奏するチャンスがありました。
オーディションの結果としては、こてこての東洋人である自分は「Cindyに近いドラマー」とは言えなかったのでしょうか、お仕事はもらえませんでした。でも本当に良い経験でした。
もちろん、残念ながらうさんくさいオーディションも沢山あります。ちゃんとしたプロダクション、マネージメントなどが関わっていなく、人の紹介もない場合は気を付けましょう。でたらめのプロジェクトで、オーディション費を取られたりする事も有ります。
ロサンゼルス、ハリウッドは特に映画、テレビとビジュアル•メディアが牛耳っているだけあり、ミュージシャンのオーディションもより容姿を厳しくチェックされる事が多いと感じています。でもそれは「美人」「ハンサム」でなければダメという事ではなく、「オリジナル」で有る事だと思います。イメージがぼやけていては、誰にも相手にされません。
楽器の演奏、音ももちろんですが、演奏のスタイル、パフォーマンス、そして容姿も併せてちゃんと自分を売り込む事が出来れば何百人と参加するオーディションでも他と大きな差がつきます。とにかく「自分」を追求しましょう!
何でもいいんです。日本人なら日本人らしい格好良さがあります。外人モデルの様にスラリ容姿端麗でなく、ちんちくりんの鼻ペシャでも、コケティッシュで勝負できます。それに今はハリウッドは東洋人ブーム。Last SamuraiやGeishaなどの映画でも東洋人が目一杯活躍しています。音楽でもGwen Stefaniのような大物が「日本人じゃなきゃダメよ!」と言ってくれています。英語が苦手とか、労働ビザがないとかの理由だけで尻込みしていてはダメ。アメリカは本当にチャンスを与えてくれる国です。体当たりで頑張ってみて下さい!
”Give it a shot! Just do it!"
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SHAMELESS PLUG CORNER (恥じなき宣伝コーナー)
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BLENDの2ndシングル“I'm Not In Love Today”が欧州でリリースされました!
ウェブでもサンプルが聴けます。是非訪ねてやって下さい。
www.myspace.com/blend1
Official Web: www.blend.de
女の子バンド、The Hologramsは激動の一年でありました。メンバーの入れ替え有り、現在2ndアルバムの準備期間中。
Blendのギターリスト(Joerg Kohring)が作曲、プロデュースの曲“Witches”は間もなくサンプルが聴ける様になります。こちらも是非訪ねてやって下さい。
www.myspace.com/theholograms
投稿者 admin : 2007年5月 9日 07:09