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2008年5月20日
第2回「未来のVintage Guitar ?」
お久しぶりです。
ヒストリーク ギターズの今井です。
この1ヶ月、とても忙しくてコラムの更新ができませんでした。
ごめんなさい。
さて、前回はヴィンテージ・ギターの定義なるものを書かせていただきましたが、それを読んでいただいた当店のお客様から質問を受けました。「90年代のギターは、将来ヴィンテージ・ギターと呼ばれるようになるのか?」ということを。
それについては、まだ分りません。今のところは、特にプレミアムのついていない「中古ギター」として扱われていますね。前回も書かせていただいたとおり、本国アメリカでも、拡大解釈しても80年代中期までが対象のようです。しかし、ヴィンテージ・ギターと呼ばれるかどうかは、今後の楽器業界事情が影響してくるでしょう。
まず、木材問題です。ギターに使用されている木材は、比較的、貴重なものが多いので、10年後あるいは20年後には、それら木材に伐採制限などがかかるかもしれません。現在では普通に使われているある種の木材は、非常に高い価格帯のモデルにしか使用されなくなるかもしれないわけです。すると、それら木材を使用した90~2000年代製ギターは、とても贅沢なスペックを持っていることになりますので、たぶんプレミアムが付くでしょう。現在のブラジリアン・ローズウッドと同じ理屈ですね。ご存知かもしれませんが、ここでブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)について、少し説明します。
ハカランダという木材は、まず60年代中期にブラジル政府によって輸出制限(丸太のままの輸出が禁止され、ブラジル国内で製材したもののみ輸出可能)を受けました。それまでは、ギターの指板やアコースティック・ギターのボディ・サイド/バックに使用されるローズウッドと言えば、ブラジル産のハカランダが常識でした。特にハカランダが希少材として扱われていたわけではなかったのです。“ダンエレクトロ”や“ハーモニー”など、低価格のモデルにも普通にハカランダが使用されていることからも、それは説明できます。
ところが、輸出制限の影響でハカランダは使用されなくなり、代わってインディアン・ローズウッドが使用されるようになります。ブラジル国内で製材された木材では、その製材方法などを理由としてギターに使用できるクォリティではなかったと言われています。そのため、フェンダーやギブソンではその直後の65年頃からはハカランダは使用されなくなりました(例外はありますが)。自社に製材所を持っていたマーティンでは、ストックが底をつく69年頃まではハカランダを使用していましたが(ヘッドつき板などは70年代に入っても使われていますが)、以降はインディアン・ローズウッドに切り替えられていきます。“ギルド”など中小メーカーでは生産本数が少ないためなのか、70年代以降もハカランダ指板が採用されていますが、それは例外です。
そしてハカランダは、92年になると今度はワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)の付属書I(絶滅のおそれのある種で、商業目的の取引は原則禁止)に掲載されたのです。そうした流れで、近年はハカランダが使用されたギターは、材の希少性からヴィンテージ価値を高めているわけですね。
ワシントン条約によって規制される木材の種類は、世界的な自然保護意識の高まりを受けて徐々に広がりつつあります。木目が似ていることからハカランダの代替材として重宝されてきたホンジュラス・ローズウッドは、現在は付属書III(商業取引は可能だが、保護のため条約締約国の協力を必要とするもの)に掲載されていますが、昨年、付属書II (商業取引は可能だが、規制しなければ将来、絶滅のおそれのある種となり得るもの)への格上を提案されたようです(結果的には提案は撤回)。また、レスポール・モデルなどのネック材やボディ材に使用されてきたホンジュラス・マホガニー(新熱帯地域の個体群のもの限定)は、すでに付属書II に掲載されており、希少材として扱われ始めています。
興味のあるかたはこちらを参照ください。詳しい対象木材リストがあります。
これらの事例を考えると、将来的にはネック材やボディ材に使用されるメイプル材が規制を受けたりする・・・などという恐ろしいことを想像してしまいます。仮にそうなると、無垢のメイプル材を使用したネックを持つ新品のギターは、ある程度高い価格以上のクラスだけになるかもしれません。その時には、2000年代のギターもヴィンテージ扱いされるはずです。
また、ワシントン条約の問題は別にしても最近のさまざまな経済状況のなか、新品のギターの価格設定は高くなっていく傾向にあります。ある程度クォリティを持ったギターの価格帯が相当に高額になることも十分に考えられます。その時には、2000年代モデルの中古品も、単なる中古価格でなく、プレミアム価格が付くと想像できます。
別の視点でも考えてみましょう。現在、ヴィンテージ・ギター専門店を開いている経営者のかたがたは、私を含め、1960年代以前に生まれた40歳代以上のかたが多いはずです。ほとんどのかたは学生時代(おそらく中高校生時)にギターを始めたでしょう。その時、誰しも自分にとってのギター・ヒーローがいたはずです。ご存知のかたも多いと思いますが、私はリッチー・ブラックモアのマニアです。彼が使用していたギターは、当時は新品で入手したであろうラージヘッドのストラトキャスターでした。そうしたことから、70年代ラージヘッドのストラトキャスターに特別な思い入れがあるのも事実です。ほかの経営者のかたがたにとっても、憧れのギタリストが使用していたギターをヴィンテージ・ギターの対象と考える傾向にあるはずです。
憧れのギタリストは、当時でもすでにヴィンテージ扱いされ始めていたギターを弾いている場合もありましたが、当時の新品のギター(あるいは当時としては単なる中古ギター)を使っていることも少なくなかったのです。
しかし、今の20歳代のかたがたが将来ヴィンテージ・ギター・ショップを開いた場合、その対象となるギターは違ってくるかもしれません。彼らのギター・ヒーローは、90~2000年代のフェンダー、ギブソンを使っていることが多いようですから。その場合は、2000年代製ギターもヴィンテージの仲間入りを果たすことになるのでしょうか。いずれにしても、今後の楽器業界の事情次第なのでしょうね。
では、今回はこれにて。また次回お会いしましょう。
投稿者 yimai : 15:08