メイン | 第2回「未来のVintage Guitar ?」 »
2008年4月 8日
第1回「Vintage Guitar とは?」
はじめまして。今回からPCIさんでコラムを書くことになりました「ヒストリーク ギターズ」の今井です。私のことをご存知のかたも、ご存じないかたも、どうぞよろしくお願いいたします。私のプロフィールなどは、以前にPCIさんでインタビューを受けましたので、こちらをご覧ください。あるいは当店のHPを覗いてみてくださいね。
さて、コラムのタイトルが「Vintage Guitar(ヴィンテージ・ギター)解体新書」ということで、ヴィンテージ・ギター(特にエレクトリック・ギター)にまつわるアレコレや、メンテナンスなどについて話していきたいと思います。何かご質問があれば、掲示板のほうからでも書いてくださいね。まずは、ヴィンテージ・ギターの定義なるものを説明してみたいと思います。結論から先に言ってしまうと、そんな明確な定義なんてないのですけどね(笑)。
ヴィンテージという言葉は、本来は品質の良いブドウが収穫された当たり年製のワインを指したもので、それが転じて、定評のある品質を持った年代ものにも使われるようになりました。楽器の分野でヴィンテージ扱いを最初に受けたもののひとつとしてヴァイオリンが知られています。ヴァイオリンの場合は長い歴史を持つ楽器ですが、それと比較するとギターの場合は短い歴史しかありませんので、当然ながら昔はヴィンテージの対象となるような楽器ではありませんでした。たとえば1960年代初頭には、エレクトリック・ギター自体は相当に普及していたのですが、何しろ世界最初の量産型ソリッドボディ・エレクトリックギターである“フェンダー”の「テレキャスター(最初のモデル名はエスクワイア~ブロードキャスター)」が1950年に正式発表されてから10年程度しか経っていないわけですから、ヴィンテージも何もなかったわけです。その時期に唯一ヴィンテージ扱いされたギターは、第2次世界大戦前に製造された“マーティン”アコースティック・ギターの一部モデルだけだったようです。
エレクトリック・ギターの分野で初めてヴィンテージ的な扱いを受け始めたのが、例の1958年から1960年にかけて生産された“ギブソン”の“レスポール・スタンダード”とされています。ボディがサンバースト・フィニッシュされていることから通称“バースト”などと呼ばれているものですね。レスポール・モデルは1961年から1968までの製造中止期間を経て(通称レスポールSGは除く)、1968年に生産が再開されますが(ただしバースト仕様は、もっと後まで生産されませんでしたが)、その時点で新品として入手できるレスポール・モデルと区別するために、1958~60年製のオリジナルレスポール・モデルを“オールド”あるいはヴィンテージ・レスポール・モデルと呼んだそうです。エレクトリック・ギターの世界で初めてヴィンテージ・ギターが誕生した瞬間です。その後、ヴィンテージ・ギターという言葉が普通に使われるようになっていきますが、最初は前述のレスポール・モデルの流れでギブソンの、さらに特定のモデルだけを指した時期もありました。ネックをボルトでボディに固定するという合理的・革新的な製造方式を採っていたフェンダー・ギターなどは、ヴィンテージの対象にならなかったわけです。ところが時代の流れとともにヴィンテージ・ギターの対象は広がっていきます。
1980年代初頭には、ギブソンなら1969年まで、フェンダーなら1964年までと考えるひとが多かったようです。ところが現在の本国アメリカなどでは、だいたい1980年代中期頃まで、つまり現在のギブソンやフェンダーに体制になる前まで(前者がノーリン傘下期まで、後者がCBS傘下期まで)の製品をヴィンテージの対象として扱っています。ご存知かもしれませんが、70年代から80年代前半までのギブソンやフェンダー製品は、製品の加工精度という点ではあまり良いとは言えません。おそらく、精度に関しては現在の廉価ブランドの極低価格品にも劣るでしょう。また、軽いギターが好まれる現在の流行からすると、70~80年代は重いギターが多いのもマイナス評価される一因です。それとともに、重量が重いことによるブライトなサウンドよりは、現代は中音域の豊かなサウンドが好まれている時代でもあります。そうした理由からヴィンテージ扱いすることに抵抗感を持つひとが多いのも事実です。しかし、特にサウンド面に関しては、重いギターでなければ出せないものもあるわけで、それは優劣の問題とは分けて考えるべき問題でしょう。
しかし、たとえ楽器の精度が低くても、たとえ重量が重くても、あの頃までのギブソンやフェンダーの製品には特別な“存在感”があった気がします。特に私たち60年代以前生まれにとっては、ギブソンやフェンダーのギターには、70年代当時、とても手が届かない憧れのブランドでした。そして、70年代後期までは「レスポール・スタンダード」や「ストラトキャスター」という製品名を持ったギターは、それぞれ1機種ずつしか存在しなかったのです。いわば弾き手が楽器に合わせなければいけないような、プライドの高いギターだったのです。そして当時、そのブライトなサウンドこそが、本物のフェンダー(ギブソン)サウンドと感動を覚えたものです。それに対して、現在のギブソンやフェンダーでは多種多様なユーザーの嗜好に応えるべく、仕様から価格帯まで数多くのバリエーションを持ったレスポール・スタンダードやストラトキャスターが生産されています。ギター・メーカーとしては時代の要求に応え、セールス面で成功したと言えるのでしょうが、私たち古い人間にとっては身近な存在になりすぎた気がします。
また、70年代には個性的な仕様を持ったモデルも数多く発表されました。それらの多くは、現在では一般受けしない仕様であるがために、リイシュー(レプリカ)モデルは登場していません。たとえばフェンダーのセミアコ・ギター“スターキャスター”やギブソンの“マローダー”などです。しかし、これも楽器としての優劣で判断されるべきではありません。その個性的な外観やサウンドは、新品では入手できない魅力ある仕様を持ったギターであり、十分にヴィンテージ扱いされて良いギターであると考えています。
要するに、あまり細かい定義など設けずに、自分の思い入れで構わないのです。そういう私自身も、以前はヴィンテージ・ギターである定義付けとして「60年代以前から生産が始まって、過去から現在までクォリティの高い製品を継続して生産しているブランド」に限定すべきだと、ある雑誌のコラムで書いたことがあります。しかし、それも訂正すべきですね。誰かが定義付けすべきことではないのです。そのひとにとって、新品にはない魅力を見つけることができたなら、それで良いのでないでしょうか。
自分の生まれ年と同じ製造年のギターを求めるひとは多いです。少し前はヴィンテージ・ギター愛好者と言えば、1960年代生まれのかたがほとんどでしたが、近年は70年代から80年代生まれのかたも増えてきた印象があります。そうした世代のかた、たとえば78年生まれのひとにとって、自分の生まれ年である30年前のギターをヴィンテージ・ギターと位置づけることは決して不自然なことではないと言えるでしょう。大げさかもしれませんが、自分のこれまでの人生に重ね合わせて、同い年のギターを買い求めるという“ロマン”を感じます。
今回はこれくらいで。また次回にお会いしましょう。
投稿者 admin : 2008年4月 8日 14:13