2008年10月 6日

第3回「Vintage Guitar価格の要素」

たいへん、ご無沙汰しておりました。
ヒストリーク ギターズの今井です。
またまた更新が遅くなってしまいました。
申し訳ありません。


この数ヶ月間、色々な業務に取り組んでおりました。そのひとつが雑誌原稿の執筆です。11月に発売予定のシンコー・ミュージックのあるムック本で、日本において今なお絶大なる人気を誇るイギリス人ギタリストひとりに焦点を当てて、全138ページに渡って彼の歴代使用機材のみを特集した内容です。昨年暮れ頃に発刊されたザ・ギターマン「エディ・ヴァン・ヘイレン」に続く第2弾となります。その中で、彼が好んで使用したギターの仕様変更の歴史について、私が執筆しました。また、彼の長いキャリアの中で使用してきた機材およびその改造歴等の執筆協力も行なっています。おそらく、世界を見渡しても、これほど詳細に書かれた本はかつてなかった画期的な内容です。私が関与したムックということで、そのギタリストにピンと来た人もいるでしょう。11月をお楽しみに。


もうひとつの大きな業務は、アンプの開発です。年内には詳細をお伝えできると思いますが、PCIさんから発売される予定です。持ち運びが楽なコンパクトなキャビネットに、パワフルはサウンドを特徴としています。自宅での深夜練習から、スタジオでのリハーサルやライブまでを、これ1台でこなせるようにデザインしました。もちろん、オール・チューブ仕様です。こちらもお楽しみに。


さて、前回までに引き続き、ヴィンテージ・ギター全般の基礎知識のようなものをお話したいと思います。
今回は「ヴィンテージ・ギターの価格」についてです。ギター類に限らず、価格には一般的に相場というものが存在しますが、相場にはある程度の価格の幅もあります。今回は、ヴィンテージ・ギターの価格を決定する要素についてお話ししたいと思います。


価格を決定する要素は、主に次の3つです。


まずひとつ目は、そのモデル自体の現在の楽器的評価です。これは発売当時の新品価格はまったく関係ありません。1959年当時、ギブソンの「レスポール・カスタム」はレスポール・モデル・シリーズの中で最上位グレードでしたが、現在のヴィンテージ市場での価格は、ご存知のとおりその下のグレードであった「レスポール・スタンダード」がはるかに高額な金額で取引されています。

フェンダーを例にすると、1963年という時期に、最上級モデルは「ジャガー」、その下に「ジャズマスター」、「ストラトキャスター」、「テレキャスター」・・・という序列でしたが、現在のヴィンテージ市場では「ストラトキャスター」、「テレキャスター」、「ジャズマスター」、「ジャガー」という序列になっています。

70年代までは、まだヴィンテージ・ギター(特にソリッド・ボディ・ギター)市場が成熟していなかったため、それらの序列は流動的でした。極端な話ですが、70年代の日本の音楽雑誌広告を見ると、66年製のムスタングと65年製のストラトキャスターが、ほぼ同じ価格で販売している店も見受けられます。また、現在ではジャズ・ベースが最も重要な位置付けにあるヴィンテージ・ベースと言えますが、70年代にはプレシジョン・ベースのほうが有名ベーシストの使用例が多かったこともあり、プレシジョン・ベースのほうが価格が高めだった印象を持っています。

しかし、80年代以降にヴィンテージ・ギターの人気の高まりと共に、モデルの金銭的評価の序列が固まってきました。概ね、80年代前期に確定したモデル自体の評価序列が、現在でも継続していると思います。


さて、ヴィンテージ・ギターの価格(相場価格)を決定する要素のふたつ目は、その個体のオリジナル度です。オリジナル・コンディションとは、そのモデルが新品として販売された当時のままのパーツや塗装を残しているということです。

ボディやネックの塗装に関しては、塗り替え(リフィニッシュ)はもちろん、オーバー・ラッカーでも金銭的価格は低くなります。オーバー・ラッカーとは、オリジナルの塗装の上に、光沢等を出す目的でクリアー塗装を吹き付ける行為を言います。

日本国内でこうした補修行為を行なうことは稀なようなのですが、アメリカで長く流通していたヴィンテージ・ギターの場合は、なぜかオーバー・ラッカーされたものが多いと感じています。現在ではアメリカ国内の愛好家の間でもオーバー・ラッカーものは嫌われていますので、そうした補修が行なわれることは少ないとは思うのですが、昔はオーバー・ラッカーが正式な補修方法として推奨された時期があったのでしょうか? 色々な人に尋ねているのですが、今のところ明確な回答を得られていません。

パーツに関しては、「フル・オリジナル」であることが、相場価格が付けられる前提となります。ちなみにフル・オリジナルという言葉は日本では一般的に使われる言葉ですが、アメリカでは「オール・オリジナル」や「オール・ストレイト」などのほうがよく使われています。

ここで言うパーツは、消耗品であるフレットやストリング・ナットも含めます。プレイヤーの方の中には、フレット交換は当然の行為で、交換によって楽器の価値が下がるということに納得がいかない方もおいでだと思います。しかし、フレット交換されているものは「フル・オリジナル」でないので、たとえ楽器的価値は上がっていたとしても、金銭的価値は下がってしまうのが現実なのです。

たかがフレットと思わないでください。アメリカ国内で行なわれたフレット交換作業は荒いものが少なくないので、楽器的価値を下げてしまっているものもあるのです。ネジ止めされているパーツを違って、フレットというパーツは木部に打ち込まれています。フレットには、木部に埋まるタング部分に食い付きを良くするための突起などがあるため、古いフレットを抜く作業の際には必ず木部に損傷を与えます。高度な技術や経験を積んだ人がフレット交換を行なうのならば、損傷を最小限に抑える配慮をしますが、そうでない場合は修復が困難なほどのダメージを指板に与えています。

また、新しいフレットを打った後に行なうフレット・エッジ処理作業時に、指板のエッジ部分まで大きく斜めに削り落としてしまっているものも多く見られますが、これも修復が厄介な状態です。フレット交換物をご購入される際には、それらも注意してくださいね。


ヴィンテージ・ギターの価格(相場価格)を決定する要素の三つ目は、その個体の外観的コンディションです。外観が綺麗であるほど、一般に取引金額は高くなりますが、前述のリフィニッシュやオーバー・ラッカーが施されたことによって美観を高めているような場合は、当然ながら金銭的評価が低くなるのは、言うまでもありません。

ヴィンテージ楽器のリストで「EX」や「VG」などの記号をご覧になったことはあるでしょうか? これらは外観的コンディションのランクを表した記号で、それぞれ「Excellent」、「Very Good」を略したもので、本国アメリカでは古くからこの表記を使用してきました。ここで外観的コンディションの名称を、キレイなコンディションの順に紹介しましょう。


「Brand New(ブランニュー)」コンディション
これは、一度もユーザーの手に渡ることなく、新品状態で残っていたものを指します。いわゆるデット・ストックものですね。新品状態ということで、まったくの無傷で「ピカピカ」な状態です。20年程前までは寂れた(失礼!)地域の売れてなさそうな(またまた失礼!)店の店頭あるいは倉庫に、数十年間も新品状態で残っているようなこともありました。

しかし近年のような情報時代にあっては、このような楽器に出会える機会は少なくなっています。しかし、中にはこんな例もありました。私自身の経験ですが、数年前の日本国内の地方の楽器店で70年代製のベースが新品として売られているのを目撃しました。そのベースの現在の店頭相場価格は10万円台後半程度なのですが、現在も、当時の定価のままのプライス・カードが付いていました。70年代の新品定価は何と30万円台なのです。多少の値引きがあるにしても、恐らくその価格では買う人はいないでしょう。今後、そのベースの相場が20万円台後半まで上がるのを待つしかないでしょうね。


「Mint(ミント)」コンディション
これは、デッド・ストック品というわけではないものの、購入したオーナーが大事に取り扱っていたおかげで、新品状態と同等の状態を指します。ミントとは“真新しい”という意味なので、厳密には傷はひとつもあってはいけないはずなのですが、ある程度まではミントと称することも許されるようです。

本国アメリカのキチンとした店では傷が1~2個程度までを、ギリギリのミント・コンディションと定義していました。しかし、これは最近に始まったことではないのですが、ちょっとキレイな程度で気安くミントと評価付けすることが多く感じます。厳密なミント・コンディションのヴィンテージ・ギターは、近年では本当に希少な存在になっているのですが・・・。


「Near Mint(ニア・ミント)」コンディション
無傷ではないものの、その言葉どおりミントに近いコンディションのことです。曖昧な評価表現であるため、これも乱用気味だと感じています。


「Excellent(エクセレント)」コンディション
まあまあ綺麗な外観的コンディションと言ったところでしょうか。その程度の範囲は広く解釈されていますので、「+」や「-」をつけて「Excellent +(エクセレント・プラス)」や「Excellent -(エクセレント・マイナス)」などと細分化される場合も多いです。

時には+を3つ付け「Excellent +++」などと記し、ニア・ミント寄りのとてもキレイなコンディションであることを強調している例もあります。一般的には、ヴィンテージ・ギター専門店の店頭に並ぶギター類のほとんどが、このエクセレント・コンディションのものになる傾向にあります。とても曖昧なコンディションのランクです。


「Very Good(ベリー・グッド)」コンディション
「Good(グッド)」コンディション
このあたりは、ある程度傷が多いことを覚悟しましょう。Good=良いという意味なのに変な話なのですが、Goodコンディションと評価されたギターは、結構、傷んだ外観をしているものが多い印象です。Very GoodにするかGoodにするかは、評価する人の気持ちひとつでしょう。


「Average(アベレージ)」コンディション
「Poor(プア)」コンディション
このふたつの表記はほとんど見かけませんが、外観的にはかなりボロボロなコンディションです。楽器的なコンディションでも、そのままでは演奏できない状態のものが多いため、「As is(アズ・イズ)」=原状渡しとしているものも多いようです。


これらの伝統的な評価の表記方法は、わかりにくいという声が多かったのか、近年では数字での10段階方式のほうをよく見かけます。評価「10」が新品状態またはミント・コンディションを、1がボロボロのジャンク状態を意味するわけですが、これも1をどのような状態に定義するかによって、ほかのランクの程度も変わってきてしまいます。「7」や「8」というとかなりキレイなコンディションを想像するかもしれませんが、実際には「7」と評価された楽器を見ると、傷みが目立つものが多い気がします。「6」というとかなりボロボロという印象ですね。

またアルファベットの「S」や「A」、「B」などの表記方法もあります。「S」は新品、「A」は美品という定義になります。
より正確な外観的コンディションの情報を表現しようと、さまざまな方式が用いられていますが、いずれの方式でも、評価する人間の主観が入り込みます。店がヴィンテージ・ギター商品リストに載せる場合には、自分の店の商品を悪く評価したくないという心理が働き“甘く”なりがちなのが普通ですのですよね。


さて、以上の3つの要因によって、ヴィンテージ・ギターの価格(相場価格)が決まってきますが、ここでお気づきになられたでしょうが、楽器にとって重要な“音”に関しては全く触れていません。そうなのです。つまり楽器的価値よりもコレクション価値に基づいて価格が決定されるのです。

クラシック楽器の場合は“良い音”の基準が明確になっているのに対して、ギター(特にソリッドボディ・エレクトリック・ギター)の場合はまだ歴史が浅いためなのか、客観的に“良い音”とされる音を定義できていないためだと考えています。クラシック楽器のように、音で金銭的価値が決まる時代になるのはまだまだ先のことだと思いますが、その時にはパーツのオリジナル度などにこだわってはいられないほどヴィンテージ・ギターの流通量は少なくなっていることも考えられます。


10年前と比べ、ヴィンテージ・ギターの価格相場は高くなってしまったのは事実ですが、その対象となっているギターは、いわゆるフル・オリジナルでキレイな外観的コンディションを持ったものに限られます。もし、楽器的コンディションだけ(音や演奏性など)しか求めていないのなら、まだまだ手に届きやすいものも見つけられるはずです。金銭的価値=楽器的価値ではありませんので、諦めないでくださいね。


では、今回はこのくらいで。

ヒストリーク ギターズ

posted by yimai at : 20:03