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2011年09月18日
第13回: Helmet/Seeing Eye Dog
2008年初め、Oakland出身の知り合いのバンド、Totimoshiからエンジニアとしてアルバム、"Milagrosa"のレコーディングに参加して欲しいと声がかかかり、Oaklandに向かう事になった。プロデューサー担当のHelmetのPage Hamiltonは自分と同じくLos Angelesに住んでいる。その時始めて会うPageと一緒に車でOaklandに向かう。行きの車での会話はぎこちなかったが、セッションが始めると、酒好き、野球好き、多くの音楽の趣味も合う事を知り意気投合した。帰りの車の中で、その共同制作の出来を気に入ったPageは、Helmetの新譜は自分にやって欲しいと言う。それから数年経ち、この作品”Seeing Eye Dog"の制作にたどり着く。
1. So Long
2. Seeing Eye Dog
3. Welcome To Algiers
4. LA Water
5. In Person
6. Morphing
7. White City
8. And Your Bird Can Sing ※cover of THE BEATLES
9. Miserable
10. She's Lost
11. Blacktop [Live] ※ボーナストラック
12. In The Meantime [live] ※ボーナストラック
13. Crazy Nights [cover of LOUDNESS] ※ボーナストラック
PageはHelmet全盛期の事とは異なり、Helmetの活動だけではなく、他のバンドのプロデュース、映画音楽制作、ギタークリニック等の他の仕事を交え忙しくしている。その為、曲作りにも遅れが出る。仕事をして以来、他のメンバーも含め、飲み仲間となり、飲んでいる時にアルバム制作の具体的な話も出るようになった。ある日Pageは「フルアルバムとは言えるほど曲が出来ていない、他の仕事で曲作りにも集中できない」と自分に言って来た。完成に近い曲は6曲あると言うので「とりあえずその6曲を終わらせよう」と言うとPageはかなり興奮気味で「良い提案だ!後が楽になる!」と即座にスタジオ選び、予約の話に入る。こうして2009年、10月、North Hollywoodにある、自分の友人がマネージャーをつとめるスタジオEntourage Studiosにて前半の録音が始まる。
数年前からライブでメンバーとしてドラムを担当しているKyle Stevenson、リズムギターのDan Beeman、そしてベースのJon Fullerがメンバーとして録音に参加する事になっていた。が、Jonの音楽に対しての姿勢に疑問を感じていたPageは、セッションが始まると同時に彼を解雇。友人で元HelmetのリズムギターのChris Traynorにベースを頼み録音が進行して行く。ドラム、ベース、ギターは順調に進んで行く。基礎録りを終えるとボーカル録りになるのだが、ボカール録りはPageの友人でボーカルコーチとして有名なMark Renkのスタジオで収録される。自分はボーカル録りにはほぼ不参加。
PageはESPのギター数本を曲、パートごとに使い分け、それをBob Bradshaw SystemでコントロールされたKorg SDD-3000等の数台のラックエフェト、数台のコンパクトエフェクターに通し、ほぼ全曲でFryette Pittbull Ultra-Leadがアンプとして使われている。ミッドレンジの強いビンテージ的な音でもなく、キンキンのヘビーメタルギターでも,最近のホワイトノイズっぽいギターの音でもない。音域が広く、中低音から中高音が多少盛り上げっているのがPage Hamiltonのギターの音だと思う。ジャズを長年勉強してるPageのギターテクニックは言うまでもない。が、エフェクトの使い分けが非常に上手い事には録音中なんども驚かされた。リズムギターのDan, ベースのChrisはビンテージ的な音が好きなようで、DanはLes PaulをMarshall JCM800 Lead Series、Chrisは曲に合わせ数本のベースをAmpeg SVT Classic通し録音が進められた。
オリジナル6曲と一つのカバー曲の録音が終わるとPageはかなり気が楽になったようで、残りの曲作りが順調に進んで行く。3ヶ月後、同じスタジオにて残りの3曲の録音が始まる。ボーカル録りは同じくMarkのスタジオにて。ちなみにカバー曲はBeatlesの”And Your Bird Can Sing”。日本盤のCDにはLOUDNESSの”Crazy Nights”が含まれている。これは後半のセッション時、Pageの友人が80年代ヘアーメタルのコンピュレーションアルバムを制作していて、Helmetはそれを演奏するように頼まれてた。ちなみにこの曲では、最近のMelvinsのセッションに顔を出すようになっていたPageは、「Melvinsみたいにツインドラムにしよう!」とドラムを重ね録り。昔からの影響はかなり大きかったようで、曲自体は昔のMelvinsのように遅めでヘビーにアレンジされている。
全ての録音が終わり、2010年3月にミックスを開始。一週間弱で無事終了。スタジオは同じくEntourage。アメリカでは2010年8月24日に、マネージャー のDavid Whiteheadが経営するWork Songからリリースされた。日本盤はPageと自分の共通の友人でもあるライター・有島博志氏を通して、彼の所属するGrindHouse Recordingsから今年9月7日、”Crazy Nights”を含めた3曲がボーナストラックとなって発売されている。ちなみに先日行われた、このリリースを記念した来日公演は大好評だったらしい。
全盛期、大手レーベルからのアルバムへの期待。全作品での経営的失敗。と、今までかなりのかなりのプレッシャーがあったと言う。今回のアルバムで前半と後半に分けた事で非常に楽になった、と、Pageは今でも時々言っている。”So Long”、”Seeing Eye Dog”と言った典型的Helmetもあれば、ここ数年、映画音楽制作を行って来た影響が観られる、”LA Water”。Beatlesファン、また音楽好きである事を表す”And Your Bird Can Sing”。今までと違ったHelmetがあり、またHelmet節も聴かれるこの一枚。Helmetの新しい章が幕を開けたと思い聴いて欲しい。
投稿者 toshik : 2011年09月18日 10:29