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2007年04月20日
第9回:スタジオ伝説: "Muddy Water Blues: A Tribute to Muddy Waters" by Paul Rodgers
自分は今までスタジオで色々な事を目のあたりにしたり聞いたりしてきました。勿論、書いてはいけないような話もあります。自分の友人、Scott Campbellから聞いた話があります。今は名ソングライター・プロデューサー、Glen Ballard(Michael Jackson、Alanis Morissette等)の片腕、エンジニアとして働いているScottですが、下積み時代は長く、多くの有名アーティストとスタジオ・エンジニアとして働いて来ました。その中の一人に今はQueenとともに活動している、Paul Rodgersがいました。
Paul Rodgersはブルースを主体としたロックバンド、Freeを経て、Bad Company、 the Firm, the Law等を渡り歩き80年代前半にソロ活動を行うようになりました。'93年に発売されたアルバムに"Muddy Water Blues: A Tribute to Muddy Waters"と言うものがあります。Scottはこのアルバムの録音を手伝ったそうです。
このアルバムですが、Rodgersがあこがれて止まなかったブルースマン、Muddy Waterの曲を中心に作られていて、やはり目玉はゲストギタープレーヤー達でしょう。 Jeff Beck, Buddy Guy, Gary Moore, Richie Sambora, Neal Schon, Trevor Rabin,Slash, Steve Miller, Brian Setzer, David Gilmour そしてBrian May。どのギターリストを取っても個性あるプレーヤーばかり。数々のバンドを渡り歩きスタジオやツアーを色々なミュージシャンとともにしたRodgersだからこそ揃えられた顔ぶれだと思います。
Scottが話してくれたことはこれらのギターリストたちの話ではなくRodgers本人のことでした。プロデューサーにボーカル取りの準備を頼まれたScottは幾つかの高性能なマイクロフォンをライブ・ルーム(またはアイソ・ブース。ミキシングボードの部屋ではなく、楽器を録音する部屋)に準備してRodgersを待っていたそうです。準備をしてしばらくするとRodgersがスタジオに到着。気さくな人で初めて会うScottにまるで友達のように挨拶をしてきたそうです。挨拶の後にRodgersが言った言葉にScottは驚かされました。「(Shure)SM57をコントロール・ルーム(ミキシング・ボードのある部屋)に持ってきてくれないか?ここで歌う」と言ったそうです。SM57はスタジオやライブで最も使われるマイクの一つではありますが、値段も安くとても高性能とは言えません。勿論、使い方によってはその性能を十分発揮するマイクではあります。が、Scottが準備したどのマイクと比べると音のひろい方は良いとは思えず、Rodgerが冗談を言っているのだと思ったそうです。
ScottがSM57を準備すると、Rodgersはそれを取りミキシング・ボードの目の前に座ったと言うのです。ポップ・フィルター(強く吐いた息でできるノイズを取り除く網またはスポンジでできた物)も付けず、しかもスピーカーの目の前で歌うと言う事はエンジニアに取ってはあまり嬉しい事ではありません。このやり方はスクラッチ(ガイド)・ボーカル取り(録音時、バンドが何処を弾いているか分かり安くするための仮のボーカル・トラック)の時にやることはありますが、最終的なボーカル取りではあまり行われません。しかも手に持って歌うとなればノイズを拾ってしまいます。
そんな事はお構いなしでRodgersは次から次へと曲を歌いました。Rodgersの魂溢れる歌声を横で聴きながら録音するScottは、殆んどの曲が1テイクだけと言う事に気付きまた驚かされたそうです。きっと若い頃に歌いこんでいた曲ばかりなので、2回歌う必要はなかったようです。ヘッドフォンを使わずにライブ感覚でバンドの音が良く聴こえるところでマイクを握りながら歌う。これが彼に取って歌いやすい環境であったのでしょう。ギターリストがギターに拘るよう、彼はマイクに拘っていたのかも知れません。自分のベストを出せる環境で歌う、それもプロのやり方の一つでしょう。豪華なゲスト・ギターリストのプレーを楽しむのもさることながら、そんなプロ魂のRodgersの歌に注目して聴くのも面白いかも知れません。
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投稿者 admin : 2007年04月20日 08:43