2001年10月30日
第1回「自己紹介」
こんにちは。
初めての人も沢山いると思いますので、はじめまして。
今回から、この場にコラムを載せてもらえる事になりました、姓は中條、名は卓と書いて「たかし」と読みます、「なかじょうたかし」36歳、男で御座います。 まあ大した事の無い、それでも楽しく幸せな少年時代を神奈川県西部で過ごした卓少年は、16歳の若気の至りでエレキベイスなどという愉快な物を手にいたしまして、ビートルズに始まりロッケン・ロール、ブルーズ、ソウル、ファンクなんてぇいう舶来の不良音楽漬けの毎日。 そのどれをも、上っ面だけを掠め取り、上手いことやっているつもりになり、いい気になっていたのですが、ひょんな事から演奏をして日々の飯酒代を頂く、所謂一つのプロフェッショナルという音楽屋になっており、有難いことに、このようなコラムと呼べるかどうか分からないような駄文を、大切なこの場に記載させていただけるような恩恵を授かった次第。 しかし、気がつけば早20年。 亀の甲より年の功というような状態に近づきつつ、「嗚呼、今年も残す所あと数ヶ月」。 毎年毎年の、「今年こそは更なる精進の年」の固い決意も「やっぱ、来年に持ち越されてしまうのね」の焦燥感に囚われる今日この頃。
で、わたくしは一体、何処の何者でしょうかと言いますと、姓はシアター、名はブルック、早い話が「シアターブルック」と申します一介のロックバンドに現在所属しておりますベイスマンなのでした。
さて、しょうもない自己紹介でしたが、今後は音楽屋に楽器屋さんからオーダーが来たという事を重々踏まえた文章を書かねば、きっと打ち切り間違い無いであろうという懸念を少なからず抱いておりますので、わたくし如きにできる範囲での音楽ネタを盛りこみつつ書いていきたいと思う所存でございやす。
まず、初回となります今回、ツアー中のこぼれ話でお茶を濁してしまうという、いきなりの暴挙、お許し下さい。
上にも書きました、わたくしが所属しております「シアターブルック」はこの夏、週末毎のイヴェントライヴ出演というスケジュールをこなしていたのですが、ツアーには移動が付物、そんな中起こった悲しい出来事について書きたいと思います。その日、卓は真夏の四国は徳島の某製薬会社主催のライヴに出演、炎天下にもかかわらず、舞台上に屋根が無いという酷な状況下での演奏を終え、東京へ帰るための飛行機に乗るべく、メンバーや他の出演者と共に、空港へと向かうバスの中にいた。 車内は、心地よい疲労感と共に談笑する者あり、ひたすら眠る者あり、物思いにふける者あり、それぞれである。 特に、後部座席に陣取った我同僚である者達は、やれ「ターンテーブルに陽があったちゃって、またレコード曲がっちゃうかと思ったよ」とか言って話が弾んでいたのだが....。(注)わたしの居るバンドにはDJがいるのですが、かつて夏場に大きな野外フェスに出演した際、直射日光をもろに浴びたため、彼の大事な大事な演奏ツールであるアナログLP盤が歪んでしまったという、苦い経験をもっています。
そんな話をぼんやりと聞き流し、窓の外に目をやっていた卓は、「やはり、お盆の時期とあって、さすがに渋滞しているな。 そういえば、今日、徳島は阿波踊りか」などと横についた車の中の家族連れを眺めながら思っていたのであった。 「演奏会場から空港までは約1時間半、渋滞すれば2時間かかってしまいますね、そんな言葉をイヴェンターのG君は言っていたっけなぁ...」という事が頭をよぎったのと時を同じくして、卓は自らの下腹部に感覚が集中していくのを感じたのである。
「おおっ、これはもしや排尿したい感か?」ライヴ終演後のお疲れ様乾杯でいくらかの麦酒を飲んだのは確か。 そのため、バス乗車時には、念を入れ排尿を済ませてきたのに、これ如何に....。
会場を出発してからもう既に時間がかなり経っているはずなのだが、今は一体、空港までいかほどの地点にまで到達しているのであろう。 そう思いながら、卓は腕時計に目を遣る。 「既に1時間以上は走っているようだ。 乗っているバス自体は、これまで多少渋滞しているとはいえ、比較的スムーズに目的地まで走っているようだし、このまま30分も走れば、空港も目に見えてくるに違いない」 まだ余裕だな、と自身の膀胱に確認をとるべく、下腹部になんとなく手を当ててみる卓。 ところがである、そんな卓の思惑を裏切るかのように、辺りの交通量が目に見えて多くなってきたではないか。 どうやら、一行を乗せたバスは空港手前の市街地の中心部、つまり一番渋滞が激しい地点に差し掛かったのだ。
なんとなく卓は、周りの人間に「あとどれ位かかるかなぁ」なんて言葉を平静を装いつつ尋ねて見るのだが、帰ってくる言葉は彼の期待に添うものとは程遠く、「さぁ...この渋滞だと1時間以上はかかるんじゃないのぉ」 そんな絶望的な言葉を聞くと、にわかに彼の膀胱は己のご主人様を嘲笑うかのように反抗的な態度をとりだしたのだ。 いつのまにか、掌と額にはイヤな汗が...。
狭い座席の中で、どうすればこの辛い状態を和らげる事が出来るであろうかと眉間に皺を寄せ考え込む卓。 落ち着き無く、窓の外を眺め出す卓。 いつのまにか膀胱メーターがFULLマークに達していることを自覚する卓。 つまり、パンパンになっている卓。 どうする卓。
絶望的なことに、今乗っているバスは、大型車であり、走っている車線は路肩より遠い車線。渋滞しているとはいえ、完全に車の流れが止まらないという、「スイマセン、ちょっとそこいらで止めてもらえませんかねぇ」と言えるような状況にないのだ。 我慢しつづけて卒倒し、自分の小便まみれになるか、それとも「もう我慢出来んのです。何処か小用をたせる場所はありませんか」と、空港までの道のりを急ぐ運転手さんに迷惑をかけ、周囲の笑い者になるかの二者択一。 そんなこと言うまでも無く後者にきまっとる、と思うと同時に卓は何故か教室で勝ち誇った小学生のごとく手を上げ、元気よく前の方に向かって宣言したのである。
「スイマセーン!おしっこ漏れそうです」
最初、周りの者の多くは、下らないことばかり言っている後部座席の方から聞こえた冗談のように思ったようだが、誰かの「どうやら本当らしいです」という言葉が伝言のように前方、運転席に届き、やがて、運転手さんと空港までの付き添いのイヴェンターさんの間でのやり取りが確認できた。街中であるこの辺りには立小便出来るようなのどかな場所は見当たらず、おそらく、パチンコ店、コンビニ、ガソリンスタンドという選択肢を考えたようである。 想像するに、運転手さんはきっと「何言ってんだよぉ、こんなでけぇ車、渋滞してる道の脇に止めんのかよぉ」と、この風体の良くない若者達で溢れるバスの後部を振り返って思ったのであろう。 しかし、正に今、卓にとっては神と同等のこの運転手さんは彼を小便たれの間抜けベイシストにする事無く、巧みな運転技術で持って、彼のバスをそろりそろりと左車線に寄せ、前方に発見したガソリンスタンド手前の僅かな駐車スペースにその巨大な車を停車させることに成功したのだ。 すでにその5分程前から、車の前方に若干内股になりながらもしっかり立ってスタンバッっていた卓は、停車と同時に深深と2度ほど彼の救いの主に礼をすると、笑顔で店員が出迎えるガソリンスタンドへと走り込んで行ったのであった。 若干、内股のまま...。さて、後日、卓は似たような状況に遭遇することになる。 もっとも今回は幸いな事に彼の身に起こったのでは無かったのだが....。
それは、一週間後の札幌、ライジングサン・ロックフェスのやはり会場から宿泊先に戻るバスの中。 某バンドのドラマーであるH君がやはり同じようにバス内で挙手「スイマセーン!おしっこ漏れそうです」の一声をあげたのである。 彼にとってしかし幸運だったのは、走行中の道路が余裕でバスを止めることが出来たことだ。 申し訳なさそうに、バスから降りて行く彼をぼんやりと眺めていた今回は余裕の卓は、心の中で「そうそう、よくある事よくある事」と思いながら、やさしい視線を送っていたのは言うまでも無い。
ちなみに、かつてわたくしはステージ上でも、おしっこを急にしたくなって難儀した経験があります。 おしっこと縁が深いベイシスト、おしっこに苦しませられてばかりのベイシストですね。かなりカッコ悪い。
って、全然音楽話じゃ無くなってしまった。最後まで読んでくれた人、有難う御座います。
では
投稿者 admin : 08:25