イギリス Guitar Buyer Magazine誌 Sep. 2008
ロックン・ロール・ドクター
David GreevesがドクターZ訪ね、悪質なトーンに悩む者たちを救う薬を持つドクター本人に出会った
78号でDr Zアンプのトリオ<Carmen Ghia、Maz 18 Jr NRとRoute 66>のレビューをした際には、心底驚かされた。米国製の手製バルブ・ヘッドの造りは美しく、サウンドも素晴らしかった。しかも、これまで我々が出会った米国の「ブティック」アンプと比べると価格も大幅に低いのである。これほどの発見が何故今までされなかったのが不思議な程である。
Dr.Z は欧州では比較的近年になって紹介されたブランドであるが、米国では事情が異なる。オハイオ州クリーブランドにあるこのアンプ会社は、今年20周年を迎えるが、素晴らしいプロ・プレーヤーの愛用者リストを誇りにしている。テキサスブルースの第一人者Buddy Whittington、ナッシュビル・テレキャスター・マスターとして知られるBrad Paisley、そして唯一無二のJoe Walshなどである。本誌はDr Zの事をもっと知るため、ドクターZ本人−Mike Zaite氏を訪ね、クリーブランドへと旅をした。
ドクターは診察中
世界中に「ドクターZ」(アメリカ式に「ズィー」だ!)あるいは「The Doc」として知られている大物であるZaite氏の良質のギタートーンへの情熱は、周りの者に移るほどの熱さである。そしてMarshallアンプの創立者Jim Marshallと同様に、彼自身はギターリストというよりはドラマーなのである。では、どのような経緯で彼はギターアンプの世界に参入したのであろう?


Dr Zアンプはオハイオ州クリーブランドにあるこの小さなショップで造られている
「私の父がテレビのリペアの仕事をしたことから、私が育った家の地下室は、現在の私の作業場変わらない様子で、シャーシュ部品や真空管が転がっていました。父はとても優しく、様々な事を教えてくれました−そして幸運にも大学では既に教わることができなかった真空管(Vacuum Tubes)の事も教えてくれました。

私がドラマーだった60年代の初期、近所はガレージ・バンドだらけでした。私も自宅の車庫でバンド練習をしていましたが、その時にギターリストが機材を置いて帰るようになりました。この時期にアンプを改造する事を覚えました−でも彼らは、私が自分たちのアンプに何をしていたか、知りもしなかったものです!それが興味を持つようになったきっかけで、その後も忘れたことはありませんでした。」
ドクターZが再びアンプの世界に戻る前は、エンジニアとしての学位取得、そして医療電気器具業界でのキャリアを積んでいた。「その内にリペアを手がけるようになり、ある時に思いました‘これに劣らぬアンプを造る事ができるはずだ!’と。そしてアンプ製作を始めました。私の一番の情熱である音楽と、二番目の情熱である電子工学を合体させることができたのです。」
聖なるトリニティ
The Docの最初のアンプはマーシャルに影響を受けたものだった。「JCM800に近いものでしたが、私なりにひねりを効かせ、自分のサウンドを造りました。誰もがVOX、FenderとMarshallのサウンドを「聖なるトリニティ」と呼び、話題にしますが、私は大好きなこの3種のサウンドを合体させたかった。それも料理人のように独自の方法でです。料理人は既にあるレシピに、自分なりの調味料を足してオリジナルの料理を作り上げるものです。」

左:Brad PaisleyはドクターZと共同で2つのアンプをデザインした
右:不可欠なテスト機材:オシロスコープ、マルチメーター、木槌とバナナ
しかし、このアプローチには問題があった。「アンプを売り始めた頃、誰もが知りたがったのは、Marshallのようなサウンドか? Voxのようなサウンドか? どのモデルなら‘何々のような’サウンドを出せるか?そんな質問をする相手に、‘全ての様なサウンドであると同時に、どれとも異なるサウンドである’と説得するのは安易なことではありませんでした。でも、長い目で見た時、自分は多くの‘ブティック’ビルダーがそうであったような、Tweedアンプをコピーするだけのビルダーではないという証拠だったのです。」
ドクターZがビジネスを設立し、拡大するに際して、同じくクリーブランドに在住するJoe Walshからアンプ製作の依頼を受けた事が大きな助けとなった。「Joe Walshとの仕事を始めた初めた時の課題は、20もの異なるギターを挿せるアンプを造ることでした。Hell Freezes Overのツアーでは、ひとつのコンサートで20回もギターを交換し、その度にアンプに戻って調節をすることなど出来なかったからです!アンプはRickenbackers、Telecasters、そしてStratocastserをはじめ、その他にも彼が使用する、全てのギターと相性が良くなければならなかったのです。」
「私が常に念頭に置いている事があります−私のアンプはフレンドリーで使い易いフロント・エンドにしようと。デュアル・トライオード・インプット(二重三極管入力)を良く使いますが、そのお陰でよりピックアップと相性の良いインピーダンスが可能になり、信号もよりクリーンに入ってきます。これは医療電気器具であるCTスキャナーから学んだことです−プロセスを始める前にデータを取得する必要があるということです。ゴミを入れれば、当然出てくるのはゴミなのです!まずは可能な限り細やかな感度を持って、可能な限りのデータを捉えるようにすることが大切で、それを伝達することで、最後にいいサウンドを送り出せるのです。つまり最初にきちんと捉えることができなければ、失われてしまうわけです。」
2ノブは良し
 

セールス・マナージャーBrent Ferguson が最新のEZG-50を手に
ドクターZのデザイン理論には、もうひつの要素がある。それはシンプルさを保ち[少なくても外側だけは]不必要な混乱を避けることである。
「皆が望む機能を取り入れようと努力しながら、同時にシンプルさを保ちました。私は多くの3ノブや2ノブのアンプを持っていて、とても気に入っています。いいサウンドを得るのに多くのノブは必要ないと思っています。アンプに背を向け、眼を閉じて演奏を楽しむべきなんです!」
この「一度設定をしたら忘れる」という哲学の例がCamner Ghiaのトーン・コントロールである。優れたシンプルさを持ち、直感的なシングルノブでアンプのサウンドを形作ることができる。これはどのような経緯で生まれたデザインなのだろうか? 「何人かのギターリストがワウペダルをトーンコントロールとして使っている事に気づきました。特定の設定をした上で演奏をしていました。そこで、インダクターなどを使うような、ワウほど複雑な構成にせず、同じようにミッドレンジをスウィープできるトーンコントロールを作り出せないかと考えました。ポット、キャップとレジスターを使った方法はないものか?そして実験を重ねた末に出来上がったわけです。」
皆の意思
ドクターZは明らかに良いアンプとは何か、独自の考えを持っている。だが、すばらしいビジネスマンである証拠に、彼は顧客が求めるものからも指導を得ている。それ故に、我々がクリーブランドで有名なライブ会場Wilbertユsで彼に会った時は、Z Festの真っ最中だった。これは毎年恒例のイベントで、米国南部の熱烈なDr Zファンが集まり、ジャムセッションをし、機材の話をし、そして最新のプロトタイプを試す場である。
「Zアンプを持つ者の多くは、複数所有していることを知りました。そして彼らは、興味を持てる新製品が出るごとに購入してくれるだろうと。それはいいことで、彼らは上顧客です。この道20年続けていますが、現在は15、16種のモデルがあり、一年に一種は新しいものを発表するように心がけています。Z Festは新しいプロトタイプを試せる場であり、人々の反応を得られます。来年の新モデルはどれになるか?それはお楽しみです!」
今年加わるモデルはEZG−50、見事な50W、6L6菅のヘッドだ。ドクターZが気づいた傾向は、より低いワットのアンプに対する要望だった。「フェラーリを造りたいとは思います−高出力で、強い押しのあるアンプです。ですが、それに対する要望は少ないのです。吹き飛ばされるような力のあるアンプは確かに魅力的ですが、実際に多くの人が必要としているのは低出力の製品です。ライブ会場の観客数もより少なく、PA機材も良質で音量もより大きくなっています。高出力のアンプは以前ほど必要とされていないのです。それに、多くの人はアンプを買っても、それを持ち出して演奏をする機会は少なく、あったとしてもとても稀なことです。家で演奏する為のアンプが求められているのです。」

アンプは昔ながらの方法で、全てが手で配線されている
マスタークラス
より小さな音量への要求に伴って、現存のマスターボリュームのないデザインにマスターボリュームを足して欲しいという要望が増えている。だが、それが解決になるとは限らないというのがドクターZの意見である:「アンプのフロント・エンドが凝っているほど、プリアンプの真空管が増え、プロセスの段階が増えます。アウトプットの真空管に行くシグナルをマスターボリューム・コントロールで調節できる方が良いのです。」
「初期のヴィンテージアンプのような、非常にシンプルなフロントエンドならば話は別です。古いSuprosやFender Tweedアンプなどを見ても、プリアンプ真空管はひとつか二つで、トーンのスタックも非常にシンプルでした。アウトプットの真空管を強く刺激し、アウトプット・ディストーションを得ることでサウンドを作り出していました。その様なアンプにはマスターボリュームを付けても意味がありません。アンプの魔法はフロントにはないからです。」
新しいEZG-50にはマスタボリュームがある。また、Dr Zのアンプではチューブ・レクティファイア[パワーアンプのバルブに直流電流を送るアンプの部品]が良く使用されている。ドクターZはソリッドステートより、チューブ・レクティファイアを好むのだろうか?

ドクターZの親友
BLUESBREAKERSのギターリスト、Buddy Whittingtonは長年に亘るDr Zアンプのファン
ソロでの演奏でも、John Mayallユs Bluesbreakersのリード・ギターリストとしての演奏でもBuddy Whittingtonのトーンは常に卓越している。
この10年以上、Dr Zアンプにめぐり会ったブルース・ギターリストは、このアンプを愛用してきた。ドクターZはBuddyについてこう語った「彼がWilbert'sで演奏をしたとき、確か'94年か'95年だったと思います。音響担当者が電話してきてこう言いました ‘すぐに来た方がいい。彼はD r Zのアンプで2時間も弾き続けている。今来れば絶対に売れる!’そんな経緯でBuddyと出会いましたが、この業界で彼ほど素晴らしい人には会ったことがありません。彼は‘ロックスター’気取りなど全くなく、そして誰よりも素晴らしい演奏をします。私のアンプとは特別に相性が良かったのです。Maz 38にギターを挿しただけで、他の誰からも聞いたことのないようなサウンドをアンプから奏でました−まるで魔法のようでした。アンプのボリュームとマスターの両方を上げた後は、ギターのボリュームと絶妙なタッチとダイナミクスで演奏をしていました。ブースト、ディストーション、そしてクリーンサウンドのペダルを使っているようなサウンドを、彼はその手だけで、アンプから奏でていました。」
「KT45やDelta 88のようにソリッドステートを利用するアンプもあります。強力であり、硬い電力供給でなければ得られない低音があるアンプをデザインする時には、ソリッドステートを使います。ですが、後にチューブ・レクティファイアと取り替えられるよう、取り外しが可能なプラグインにしています。」
「でも低出力のアンプから、歌うようなサステインを得るには、チューブ・レクティファイアが最適です。EZG-50にはチューブ・レクティファイアを使って出力を下げました。固体レクティファイアを使うと、50ワット以上のピークになってしまいます。チューブ・レクティファイアの利点はアンプの音量を上げる程、自然に「たるむ」ことです。プレートの電圧を直線状に下げ、自然なコンプレッションを得られ、最初のアタックの後に音符が膨らみ、うなります。」
真空管の未来
ドクターZが現在入手可能な整流管の品質に関して不満を持っていると知ったとき、我々は真空管アンプの未来について心配するべきなのか問わざるを得なかった。これから、真空管は高価で入手困難なものになるのだろうか。
「確かにその日が来るのを心配しています。でも、だからと言って夜も眠れない程心配をしてはいません。新しい真空管も市場に出てきています。もちろん、古いBrimars、MullardsやRCAの品質には適いませんが、手ごろな値段で入手することができます。ただ、良いものは3つ買った内の一つだけという事実もありますが、それでもNOS真空管を買うよりは安いわけです。」
「私のアンプは、簡単に手に入る真空管が使えるようにデザインをしています。真空管がある限り、真空管アンプは造り続けます。手に入らなくなった時は、固体アンプを造り始めるでしょう。嫌っているわけではありません。良いものが造れるなら、是非やりますよ!」