Freedom Custom Guitar Research
東京都荒川区
深野社長
カスタムギター製造工場を備えているので、どんなリペアの要望にも対応できるところです。研究熱心な深野社長のお話は勉強になります。
PCI:フリーダムさんの創業はいつですか?
深野:1998年の春になります。場所はここで、今年でちょうど10年になります。
PCI:その前は何をされていたんですか?
深野:それまではキッズギターというカスタムとか修理をやる工房で仕事をしていました。お師匠さんは木戸宏さんという人です。
PCI:そこではどれくらい仕事をされたんですか?
深野:そこでは12年近くになりますかね。この仕事を始めたのが学校行ってる最中からなんです。自分はESPのギター製作学校の初回生なんですよ。日本ギター製作学院ていう名前でやってたころです。
PCI:その話はTonesの佐藤さんの所でもお聞きしました。彼が1年か2年後輩だということですね。
深野:そうですね、懐かしいです。それで学校へ行きつつESPの仕事を始めました。ですから19歳くらいからこの仕事をやっています。
PCI:それで学校を卒業されてからキッズギターへ就職されたんですか?
深野:在学中はESPで働いていたんですけど、卒業後はアメリカで仕事がしたくて半年間友達を頼ってボストンに行ったんです。バークリー音楽学院のすぐそばにみんなで共同生活している場所があり、そこに潜り込んだんです。ビザが切れるまで6ヶ月間いました。その時にアメリカで就職活動をしてみたものの住所不定でまともに就職できるわけもなく、アメリカでの仕事をスタートすることは実現しませんでした。でも何となくどうすればいいかという事は分かったんでとりあえず荷物をまとめて日本に帰ったんです。そして日本に戻ってお師匠さんの所に遊びに飲みに行ったら、“俺やめたぞ、ESPを”って言われて、“え、あなた取締役までやってたでしょ”みたいな感じで驚きました。取締役で工場長までやってた人なんですけど、“工房の場所も借りたから見に来いよ”って言われたんです。それで見に行ったのがキッズギターだったんです。それでお師匠さんと二人でそこで仕事をすることになりました。
PCI:キッズギターの立ち上げから一緒に関わられたんですね。
深野:はい、そうです。その後一人増え、二人増え、少しづつ大きくなっていたんです。その後個人のギター製作家が集まって発表、展示、即売をする会があって、これはヤマハの方でやってたんですけど、それに誘われて作品を出したのがきっかけで、独立する道もありかなと思うようになったんです。
PCI:それが10年前のことですね。その後いろいろあったと思いますが、現在のご商売のメインはリペア以外には何をやってらっしゃるんですか?
深野:リペア以外には、ギター製造品ですね。木材から完全に1から10まで仕上げて製造販売しております。エレキギター、エレキベースが主体ですね。それからアンプも若干やっています。大きく分けると、製造と修理と物販と3つの商売ということになりますかね。
PCI:それで取り扱い品目としては、ギター、ベース、アンプ、エフェクターということになるんですね。従業員は何人になりますか?
深野:自分以外にかみさんも入れると12人ですね。
PCI:会社を立ち上げてこれだけの所帯になるまでは、大変な道のりだったと思います。面白いエピソードがあればお願いします。
深野:会社を始めた頃は会社に寝袋持ってきて、フリーダム・ゼロ状態でした。始めた時から、製造と修理と物販を3本柱でやってました。最初は4人で始めて、少しづつ仕事の展開が増えていったという感じでした。大きな転機は個人会社だったのを法人化した事と、売り専門の人間で工場とファイトできる人間が入って来た事でしょう。その人物は後で紹介しますけど。彼が来てくれた事で技術をお金に変えるという発想が進み、会社の経営に関してもいろいろ発想が変わりました。自分はどっちかって言うと技術畑の人間なんで、社長やってるって言ってもこの性格で、音と楽器に対する好奇心のみで社長をやってるようなものなんで、営業戦略とか経営についてはなかなか上手くいかなかったんです。お金を産み出す事に関しての知識やノウハウは頭ではわかっていても行動が身に付かなかったりしたんです。
PCI:そういう営業専門の心強いスタッフが入った事で大きく飛躍されたんですね。その方はいつ頃は入られたんですか?
深野:ちょうど5年前です。
PCI:リペアについてお伺いしたいんですけども、リペアの商売の比率はどの程度なんでしょうか?
深野:昔は大きくて主軸を成していました。今は製造や物販も増えてきたんで修理の比率は相対的に低くなってきました。修理については人足数次第なんです。作業を省ける所っていうのが少ないんですよね。電装系の修理、ネック折れの修理、塗装周りの修理とかの量を増やし尚且つ質を高めるという事になると、人足という言葉は言い方がちょっと変かもしれませんが、人間力と技術の全てを高めていかないと数字に結びついていかないという難しさがあります。
PCI:今リペアは何人でやっていらっしゃるんですか?
深野:今は3人体制プラスアルファです。
PCI:深野さんも修理に関わる事はあるんですか?
深野:自分が修理に携わる事は今では殆どなくなりました。最終的にサウンドの設定とか、ピックアップのリワインドについては関与しています。
PCI:アメリカのビルダーの工房も何度か見学されて影響を受けたと聞いておりますが。
深野:そうですね。一応希望する展開としては、アメリカでギター作りがしたい、ということです。僕はヴィンテージにやられている人間なんです。否定しつつずっとカスタムオーダーやOEMを作る仕事をやって来ました。それをやってる中で、ヴィンテージとは、というのはずっといつも考えていた事でした。自分の中である種の諦めがあったんです。やっぱり無理だ、いわゆる経年変化をサウンドとして表現するのは難しいな、ということで諦めていたんです。とあるところでちょっと考え方が変わったんです。たくさんヴィンテージギターを見たり弾いたりしながら新しい楽器を作っていう事を繰り返しているうちに、あることに気が付いたんです。ヴィンテージギターは経年変化であのサウンドが生まれたっていうところの比率ですよね。そういう意味ではアメリカの工房の様子も大変参考になりました。
PCI:もう少し詳しく教えてください。
深野:例えば、ピックアップのリワインドをしていて、パフのリワインドとかもう何個やったかわからないほどやりましたし、フェンダー系もたくさんやりました。フェンダー系については、もとのコイルワイヤーを使って、ほどいて巻き直すという事までやりました。それは何故かっていうと、今のワイヤーを使ってもあの音にならないからです。元のワイヤー、胴の素材が影響してきちゃう、というのはどうしようもない部分の一つです。それから経年変化に伴う木のエイジングとか金属のさびとか塗装のクラッキングにしても、確かにヴィンテージギターのサウンドを作る要素にはなっています。ただギターという楽器全体として見た時に、これらの経年変化で良くなった部分っていうのは結構少ないかなっていう事に気が付いたんです。話を先に戻しますと、パフのリワインドをする時に、必ずマグネットを引き出してきてどの程度着磁があるのかデジタルのガウスメーターで計ります。そうすると殆どのものが落ちてないなっていう事が分かったんです。もちろん落っこっているものもあります。確かに経年変化でアルニコは変化しやすいですけども、それでも大きく落ちているものっていうのはあまり無いのです。逆に磁力がちゃんと残ってるものの方が良いビンテージギターには多いんです。
PCI:そういう事実が分かって、ヴィンテージギターに対する見方が変わったんですね。
深野:ヴィンテージギターで音がいいやつっていうのは、当時出荷された時から最初から良いって事です。
PCI:経年変化で良くなったってわけではないんですね?
深野:もちろん経年変化で良くなる部分もあります。例えばサスティーンの部分だったりとか倍音の含み具合とか、ただ大本の部分っていうのは経年変化ではそんなに変わらないかなという事が分かったんです。ですからその大本の部分をしっかり押さえ、それから経年変化で良くなる部分を解明していく事の積み重ねによって、“これ新品の楽器?”と言われるような楽器が作れるようになったんです。それがコンスタントにできる楽器作りを地道にやっていきたいなと思うようになったんです。それから経年変化という部分については、やっぱり長持ちする楽器を作りたいなと思っているんです。自分的にはそこがスタートラインだと思うようにしています。今のヴィンテージギターと呼ばれるものが50年、60年でその状態になっているという事は、年間何千本と作られたもののの内、100本200本だけが50年、60年持つという事ですから、自分たちの作るギターは普通に作っていたら50年後にはみんな無くなってしまいます。10本作ったらその10本全部が50年60年持つようにしたいんです。音と機能とルックス、この3つの大きな要素の他に、耐久性というものをうちの製品には無条件で入れるという事にしました。それは将来ヴィンテージギターになる入り口ですよね。ギターが使われ続ける要素って、ルックスが良くないとだめ、バランスが良くないとだめとかありますけど、最低限楽器としての命を50年、60年と失わないという事を出発点にしたいと思うようになりました。好みはいろいろあるんですが、でも楽器として生きていれば使われ続ける可能性は高くなります。楽器としての命が失われないものをいかに作るかっていう事において、楽器を作るという場所として東京を選びました。ここはギターが使われる環境に一番近い場所なんです。
PCI:それでここでスタートした後、いつかアメリカでギター作りを目指すという事なんですね?
深野:そうですね。でも日本で作るのを止めたいということではありません。 Made in Japanでのギター作りはずっと続けて、日本の音楽と日本のミュージシャンにドキドキワクワクを供給するっていう事はずっと続けていきたいです。またMade in Japanのものを北米やヨーロッパにも出したいという気持ちもあります。それとは別に、アメリカでエレキを作りたいという事においてはすごい単純な動機で、三味線をアメリカで作っているアメリカ人が日本で三味線作ってみたいな、っていう気持ちとたぶん同じですかね(笑)でもなかなかアメリカへ進出するというのは難しいです。一筋縄ではいかないですね。今はいろいろな話を聞いて勉強中です。
PCI:リペアの話に戻りたいのですが、リペアの商売の比率は相対的に減ってきたと言うお話ですが絶対量は増えているんですか?
深野:そうですね。絶対量としては着実に増えていますね。うち自体が工場形態で商売をやっていますので、お付き合いのある個人客さん、ミュージシャン、楽器店、それからメーカー、それぞれの方々からぴんからきりまでいろいろな修理の依頼があります。うちは工場なのでできない仕事は無いのです。
PCI:他のリペアショップと比べてやはりギター製造工場を持っているということで、守備範囲はかなり広いという事ですよね。
深野:そうですね。塗装が絡む修理も全てできるというのはうちの強みですね。
PCI:なるほど。それ以外に他のリペアショップと比べて差別化できるところはどんなところでしょう?
深野:まずは人ありきなので、お客さんのサティスファイは何なのかをまず捉える事が大切だと思っています。このリペアの場合はこれがいいのでこういうパターンでこれがいいっていう様なアプローチはしません。その向こう側を見るっていうんですかね。お客さんは何故これが必要だと感じているのか、預かっている楽器を見た時に、この人はどういう頻度でどういう感じのプレイで、どういう位置に楽器をかまえているのかっていうのがよく見ると分かってきます。特に例えば預かりの請負の仕事に関しては、お客さんと直接対応できないので受け付けた人間からの情報と紙しかありません。あとは唯一事実を語ってくれるのはギターそのものしかないのです。そういう時は、そのギターを見て、ある意味その人の性格まで見ようとします。ああ、この人、弦を替えるの面倒に思う人なんだな、とか。
PCI:ギターそのものを見て使い手のニーズを探るということですね。
深野:そうですね。例えばナット交換をしてくださいと紙に書いてあった時に、何故ナット交換が必要なのかをギターを見て見極めるのが重要な事なんです。最終的にはそういう事を考えて修理をしないと、お客さんを満足させる事は出来ないと思っています。ベースでナット交換をする場合などは、ピッチがスムーズにいくようにしたいのか、サウンドコントロールがしたいのか考えなくてはなりません。このベースを見ると、傷の具合とかから見て普通の位置でベースを持つ人じゃないとします。そうすると普通のナットの高さで仕上げてもその人の弾き方ではびびっちゃうという事も在り得ます。楽器そのものを見てその人の弾き方や遣い方を想定してナットの高さなども決めるという必要があるわけです。
PCI:それができるためには、リペアをされる人も相当な経験がないと難しいのではないでしょうか?そういう人を育てる教育も重要ですね。
深野:そうですね。向こう側を見ろ、何の為に、というのを捉えて仕事をしろ、というのは常に皆に言ってます。物理的にナット交換してください、フレット交換してください、と言われても、必ずその向こう側があるんです。車の購入と一緒ですよね。もちろん車そのものを眺めてうーんって言ってる人もいるかもしれませんが。普通は車を手に入れるって事は、カーライフを手に入れるって事なんですよね。それに近い感覚でお客さんのサティスファイを考えて仕事をするという事が最も重要な事だと思っています。
PCI:リペアの種類としては最近はどういうのが多いんでしょうか?
深野:ネック折れの修理は大変多いですね。年間60〜70本ではきかないかもしれません。
PCI:リペアの量としては月に何本くらいやってみえるんでしょうか?
深野:100本から200本の間をずっと行き来しています。
PCI:リードタイムとしては、フレット交換をお願いすると大体どれくらいかかるんでしょうか?
深野:フレット交換については大体1ヶ月から1ヵ月半の納期を頂いています。これに関してはスピーディーに上げる事はできなくはないんですけど、今のうちの状況だと仕事の量から見て順番待ちで進めなければならないという事があるのと、納期と言うのはいろいろな要因で大きく変わる可能性があるので、ご迷惑をお掛けしないように余裕を持って回答するようにしています。うちの場合、ひとりの人間が全てをする仕事ではないんです。分業で仕事を進めます。フレットワークをやる人間は、ずっとフレット主体でやります。
PCI:仕事の内容で担当の方が替わるという事ですね。
深野:そうですね。フレット交換をする場合は確実に3人の手が入ります。
PCI:なるほど。フレット交換も3人で分業してやられるわけですね。
深野:そうです。最終的に調整してセットアップする人間は、フレット打った人間とは違う人間なんです。このやり方は、自分達としてはトータルとしてクオリティを高めるには適したやり方だと思っています。人の目が違う角度から入るという事になりますから。
PCI:深野さん個人についていろいろお聞きしたいと思います。ギターは弾かれるんですか?
深野:そうですね。弾きますね。でも弾いてたというほうが正確かもしれません。
PCI:弾いてた頃は、どんな音楽をやってられましたか?
深野:自分は中学時代にツエッペリンと出会って、70’s’、60’sにどっぷりはまりました。高校入ってからはハードロックとジャズフュージョンやってました。先輩のバンドを手伝ったり学校外でパンクバンドをやってたりしました。言ってみれば、音楽馬鹿ですね。
PCI:最近は弾かれないんですか?
深野:もうバンド活動的な事は無いですね。たまに友達がやってるバンドで、うちのかみさんがドラマーなんで、二人でそのバンドにぽこっと入ってジャムるみたいな事はにやってます。
PCI:最近聴く音楽はどんなものですか?
深野:最近良く聞くCDはオルガンものが多いですね。ハモンドが好きで。音楽は殆どノージャンル状態で何でも聴きます。でもやっぱりロック系が好きですね。やるって事で考えると、やっぱりサザンロック系、ざっくりとしたナチュラルドライブな横のりな音楽が好きです。ストーンズのかっこ良さとジミヘンのかっこ良さとブラックミュージックのかっこ良さに目覚めたのはちょっと遅くて20代の半ば頃です。ギター弾くのはもう止めよう、音楽才能ない、作る方に専念しようってなってからはいろんな音楽を聴くようになりました。そうして聴く音楽の幅が広がってからは、ジノ・バネリを大好きになって、ビニー・カリウタが好きになって、ジルジャン・デイでビニーがヤマノに来た時にスティック持って見に行きました。
PCI:ジノ・バレリは最近もう日本に来てないですよね。
深野:来てないですね。前にNHKホールに来たんだけど、良かったですよ。客層がすごい可笑しかったです。革ジャンのメタルのお兄ちゃんもいれば、ドレスとタキシード来たおじさんとおばさんが腕組んで入ってきたり、自分たちみたいのとか、すごい客層がNHKホールに集まって聴いてました。タワー・オブ・パワーも大好きだし、節操ないです。今はジャズファンク系が好きって言えば一番好きですかね。
PCI:それでは最後にうちのサイトの読者に何かメッセージがあればお願いします。
深野:うちのオリジナルのギターですが、自分的にフェンダーとギブソン中道を行くアプローチをしています。ギブソンのマテリアルアプローチでフェンダーライクな響きをさせるという感じの良いギターを揃えていますので、ぜひ楽器屋さんで試してみてください。さっき話したように耐久性というところではうちの製品は長持ちします。うちの商品は全て100年保障付けてます。
PCI:100年後生きてフリーダムギターをぜひ触ってみたいです。
フリーダムカスタムギターリサーチ
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