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2007年11月05日

第38回:もうダブルスタンダードはやめにしよう。(2007年11月4日)

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もう飲みすぎるのもやめに...できないな、きっと。

来年も2月に2週間ほど帰国し、
都内や東京近郊で約10本の演奏をすることになった。
年に一度の帰国演奏はほぼ年中行事と言えるまでに定着しつつあり、
自分自身やG.J.JUKEの存在を日本の音楽シーンの中でも知ってもらうという作業が
形のある結果を少しづつではあるが生み出し始めているように思える。
ところが逆に、そんな俺達をしっかりと受け止めてほしいはずの
日本のライヴミュージックシーンに、どうも元気がないらしいのだ。
確かにこれはなにも今に始まったことではないし、
俺の住むアメリカでも随分前からライヴミュージックシーンの衰退を危ぶむ声は
そこかしこからきかれているのは事実なのだが、
数週間前、俺が日頃からとても懇意にさせていただいている
群馬県のある街でライヴハウスを経営する元プロベーシストの友人と
その店の常連客の一人からたてつづけにこんなメールをいただくと、
事態は思いのほか深刻なのだと実感せずにはいられない。

.....元気ですか?
このまま店を存続するのに疑問を感じており、今考慮中です。
店を開いてからだいぶプロのミュージシャンとの繋がりが広がり、
当店にも呼びたいのですが、この街のアマチュアミュージシャン達に聞いたら、
プロ呼んでセッションしてみたいとか、一人だけでいいとか、
プロの演奏は求められていないのです。
音楽文化度の低さに、ため息です.......

......ヒロさん、
店長は店を今年いっぱいで閉めるなんて言ってるので、
せめて来年いっぱい様子を見ようよって、常連で励ましてます。
しかし、店長の思いが周りに伝わらないことがもどかしいらしいんです。
ライブハウスをアマチュアの集会所にはしたくない、
プロの演奏を聴いて演奏のレベル向上と、
他のジャンルを聴くことで音楽の幅を広げて欲しいとの思いは
全くの空振りに終わっています。
とにかくアマチュアの演奏家は自分の世界に引きこもり
それで満足してしまっているという
どうにもならない現実が分かっただけにやる気がうせてます。
それに観客が育っていないんです。
アマチュア演奏家の時は満員になるのに、
実力派のプロが来ても見向きもせず(これは実力派のアマにも共通)
人の付き合いでしか来れない観客、
自分の意思でお金を払いプロに演奏に耳を傾けようとする自立した人がいない現実。
要するに音楽文化は無いのです。人付き合い文化花盛りなのです。
これは全てのアマ演奏家の客に共通してるのですが、
どのライブでも大方の観客は身内ばかりで、フリー客は少なく、
その後のライブに来る客にはほとんどならないのですね。
とにかく演奏家、又は人付き合いでしか来れないので、
プロの演奏家からオファー来るのに客が来ないので断っているのが現実です。
このままでは本当に1年ももたないかもしれません。
私なんか文化の火を消したくないのでサポートしていますが、
なくなったら無くなったで他の店に行けばよいだけですから、
アマ連はどこ吹く風ですか......

この御二人がこれらのメールで伝えようとしている音楽シーンへの思いは、
俺がアメリカの音楽シーンに身を投じてから約10年後に
G.J.JUKEをスタートさせ、日本での演奏を始めた時から、
既に薄々は感じていたことだから、だからなおさらそれ以来、
少しでも多くの日本の音楽ファンが、
ブルース、そしてロックはオーディオ鑑賞アートではなく
ライヴパフォーマンスアートであることに目覚めて欲しいと願い、
G.J.JUKEの演奏をなんとか継続させて毎年恒例にしようと努力しているのである。
「弁天スペシャルセッション」で、
「年齢やキャリアを一切度外視したプロ・ミュージシャンによるジャムセッション」
にこだわるのは、
プロとアマの間には技術的、精神的な差が歴然と存在すること、
オーディオを捨て、とりあえず楽器を押入れにしまい、
完璧に「聴く側」の立場でライヴハウスに何度も足を運んで
初めてその差を体験できるということ、
そして誤解を恐れずにいうなら、
その差こそが音楽の素晴らしさなのであるということを、
出来るだけ多くのアマチュアミュージシャン達に知ってもらいたいからなのだ。

今年五月の弁天セッションには
三十人近くの現役プロが無報酬で飛び入りし想像以上の大盛況となり、
さらにその後のこのセッションへの反響があまりにも大きくて
少々戸惑いさえ感じてしまった程だ。
そして何人かのアマチュア・ミュージシャンからもメッセージをいただいた。
「次のセッションはいつですか?演奏させてくれたら、行きます。」とか、
「やっぱりミュージシャンはこっち(客席)にいちゃダメですね、
そっち(ステージ)にいなきゃ。」とか。
ここで改めてこれらのメッセージに返信させてもらう。
来年の2月に同じ新中野「弁天」で、また「弁天スペシャルセッション」をやるから、
是非もう一度来てほしい。ミュージシャンとしてでなく、オーディエンスとして。
ステージの上には前回同様、30人近くの現役のプロミュージシャンが次々と現れ、
リハも打ち合わせもないまま、
しかし水を得た魚のように生き生きと「音」を創り出すはずだ。
それは、それこそ子供の頃に音楽に魂を奪われ、
以来音楽以外の全てを失う覚悟で音楽を続ける人間にしか吐き出せない「音」のはずだ。
またそれは、定職を持ち安定した生活を後ろ盾にしてふわふわと生まれる趣味の音とは
とてもじゃないが相容れ得ないほど大きく違う「音」なはずだ。
それでもなお「俺も一緒に演奏させてください。」と言うのなら、
相当な覚悟を持ってやって来てほしい。
なぜなら、俺達プロ・ミュージシャンにとってステージとは
この世のどこよりも神聖な場だからだ。

G.J.JUKEのギグや弁天スペシャルセッションで俺が伝えたいもう一つは、
日本のロック、ブルースのシーンにもアメリカやヨーロッパで十二分に通用する
優秀なミュージシャンがいるということを実感してもらいたい、ということ。
つまり、山岸潤史、塩次伸二、嶋田ヨシタカ、佐藤イサム等の名前が
ニューオリンズやニューヨークでどれだけ地元のミュージシャン達と同等に、
いや彼等以上に高く評価され尊敬されているかを知って欲しいし、
それからニューヨークの有名ジャムセッションに突如飛び入りし、
堂々としたパフォーマンスで地元の音楽通たちを総立ちにさせた
森永アキラや嶋谷信介を見ればわかるように、
若い素晴らしい才能が日本にもどんどん育っているのだということを是非知っていただいて、
再びかなりの無理を承知で言わせていただくが、
この世にはプロ・ミュージシャンとアマチュア・ミュージシャンの
2種類のミュージシャンしかいないという事に気づいてほしい。
日本人だのアメリカ人だの黒人だの白人だの新しいだの古いだの、
ギターがどうのアンプがどうの南部がどうのシカゴがどうのとか、
そんなどうでも良いようなことをとかく音楽の良し悪しを決めつける指針に使いたがり、
ご多分に漏れずいつまでたってもブランドネームに盲従する日本の音楽シーンは、
そろそろ世界の失笑を買い始めているという事実もこの際知っておいていい。

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ビリー・ジョエル・バンドのテナー、リッチー・キャナタ(左)と演奏する嶋谷君。
彼は塩次伸二氏のギタージムで腕を磨き、ギター片手にアメリカにやってきた。
写真には写っていないが、
このときステージの右袖にはスパイロジャイロのギタリストフリオ・フェルナンド氏がいて、
嶋谷君の演奏をじーっと聴きながら、なんどもなんども深くうなずいていた。

蛇足1
PCIから新しいペダルが届いた。
AC+(エーシープラス)というオーヴァードライヴペダルで、
一つの箱に違うキャラを持つ二つのオーヴァードライヴサーキットが入っている。
チャンネルAはマーシャルを歪ませた時、
チャンネルBはフェンダーを歪ませた時の、
それぞれのトーンを意識してデザインされたそうだ。
今日までに既に十回以上のギグで使用してみたが、
俺の場合はまずチャンネルBを、使用するアンプの一部と想定して全体の音作りをする。
つまりアンプとギターをエフェクターなしの直で、
「一番良いトーンの出るヴォリュームで弾いたとき」のトーンを
チャンネルBの六つの調節ノブ、スイッチでシミュレートしてみる。
そしてそこにチャンネルAを「オーヴァードライヴペダル」として加える。
デボラ・コールマンやジョー・ルイス・ウォーカーのような、
ロック・ブルース系のミュージシャンをバックアップする時は特に、
RCブースターとBBプリアンプのように、
ナチュラル系とハード系の両極を網羅しそうな二つのオーヴァードライヴを使用するか、
またはACブースターのようなあくまでもオーソドックスなオーヴァードライヴを一つ使用した。
ただ前者では両ペダルのキャラの違いが若干開きすぎであったし、
後者だとどうしても許容範囲が狭くよりフレキシブルな音作りには限界があった。
その点このAC+はとてもフレキシブルで無駄のない、
特に俺のような、バックラインに頼る機会の多いミュージシャンにはとても便利な道具だと思う。

蛇足2
さて、日本ツアー、とはいっても東京近郊、2週間だけ。

2月14(木)
代々木Artica
濃厚バレンタインアコースティックデュオ
ヒロ鈴木 + 高橋誠 

2月15(金)
上馬ガソリンアレイ(駒沢大学)
ヒロ鈴木&フレンズ#1
ヒロ鈴木+塩次伸二+渡辺茂+松本照夫

2月16(土)
北千住クロウフィッシュ
「北千住でブルースだ!」 ヒロ鈴木&フレンズ#2
ヒロ鈴木+塩次伸二+渡辺茂+河合洋

2月17(日)
荻窪ルースター
「塩次伸二プロジェクト#1」
塩次伸二 + 入道 + ヒロ鈴木

2月18(月)
高円寺ジロキチ
「塩次伸二 ギタージム」
特別ゲスト・ヒロ鈴木

2月19(火)
高円寺ジロキチ
「塩次伸二プロジェクト#2」
塩次伸二 + 松本照夫 + 小川ヒロ + ヒロ鈴木

2月21(木)
西荻窪テラ
「G.J.Juke 2008 #1」
ヒロ鈴木 + 嶋田ヨシタカ + 三恵勉 + 山内薫
 
2月22(金)
新中野 弁天
「ヒロ鈴木 スペシャルセッション」
ヒロ鈴木 + 嶋田ヨシタカ + 三恵勉 + 山内薫 
              + 30名以上の現役バリバリプロミュージシャン達」

2月23(土)
荻窪ルースター
「G.J.Juke 2008 #2」
ヒロ鈴木 + 嶋田ヨシタカ + 三恵勉 + 山内薫

G.J.JUKEの演奏、そして弁天セッションは勿論のこと、
今回はもんた&ブラザースの高橋マコトさんとのアコースティックデュオや、
日本ブルースギターの巨人、塩次伸二さんとのセッション、
さらに新しい才能との交流の場として
某音楽スクールでの特別バンドクリニックや
複数のアマチュアバンドとのカップリングライヴ等々、
超多忙な2週間になりそうだ。

ここまでブッキングの作業をしてきて痛切に思うのは、
東京には驚くほど多くのライヴハウスがあるのに、
彼等が音楽を大切にする気持ちと同レベルで
ミュージシャンを大切にしてくれる店となると
これは残念ながらけして多くはない、ということだ。
逆を言えば、俺が出演する店、出演交渉中の店は全て、
ミュージシャン、音楽、オーディエンスを大切にする店、
ライヴアートを本気でサポートしている人たちの店ばかりだ。

投稿者 hirosuzuki1 : 2007年11月05日 19:28

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