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2006年08月05日
第32回:Xotic Guitars
***最近、インターネット・サークル(のようなもの???)への参加を偶然にも日米の友人達から同時に薦められ、言われるがままにスタートしてみた。アメリカ側のそれは、「Myspace」とよばれるスペースで、その中に設けられたアーティスト(ミュージシャン)のためのスペースには自分のプロファイル、写真やビデオ・クリップ、そして一人4曲までの楽曲とがアップロード可能になっていて、いうならばアーティスト同士のネットワークが一定のレベルのセキュリティーのもとに広く繋げられながら、自己アピールのために外部へも開いた「簡易ホームページ」のようなよく出来たシステム(http://www.myspace.com/hirosuzuki)で、著名なプロ・ミュージシャンやアーティストも数多く参加している。
例えば、このMyspaceのアクターのサークルでもちょっと覗いてみれば一目瞭然なのだが、いかに参加者一人一人がアグレッシヴに自己をアピールしているかが良くわかる。自己満足は当り前、むしろ自己満足を思いっきり楽しみ、たとえ「2」の話を「1000」に誇張してでもいかに自分が美しく個性的で優れているかを積極的に発信する。まあ、これはサイトの世界に限ったことではないのは言うまでもない。自分を少しでも美しく見せるための努力を惜しまず、チャンスとあらば周囲を押しのけてでも最前列へ出てゆく積極性があって当然の、非常に直接的でフィジカルな競争社会だ。そしてその代わりに、自分がクリエイトした自分の姿も技も言動も、全て自分自身が責任を負って引き受ける覚悟も必要だ。本人達はいたって本気なのだ。
日本側のスペースもいろいろな方たちが集まっている。こちらはどちらかというと共通の趣味や嗜好をメンバー同士の間で語り合う、クラブ活動の連絡帳のようなスペースで、紹介者を通じなければ会員になれない、かなりしっかりとしたセキュリティーを備えており、外部からの閲覧は出来ない。かなり「内向き」ではあるが、写真を豊富にアップロードでき、こちらも横の繋がりを広げるためにとても便利に出来ているのだが、参加者のほとんどが自分の実像の写真を掲載しない。自分の飼っているペットや、本人の好きなアニメのキャラクターなどを自己紹介の写真欄に張り出している方がほとんどである。とても興味深く思ったので、参加者の何人かにこの理由を質問すると、「悪用を恐れている。特に女性の参加者は十分に気をつけなければならない。」、「自己アピールに慣れていない。自分の写真を公にするのには抵抗を感じる。」等々の答えが返ってきた。ある別の参加者によると、日本人同士が匿名偽名でおこなうウェブ上でのいじめ行為や犯罪行為は確かに陰湿を極めるのだそうだ。
どちらのスペースもそれぞれの国では最も参加者の多い、現在では非常に有名なスペースである。その両者に参加する人々の、「自己アピール」をめぐるアプローチの違いから、それぞれの国での「個」の考え方の違いが見えてくるような気がする。例えばもし誰かがMyspaceに参加するアクター志望の女性の写真をストリップ・クラブか何かの広告に悪用したとする。その女性は間違いなく犯人の身元割り出しをMyspaceに強く要求し、ためらいなく告訴するだろう。ただ告訴理由は、もしかすると「名誉毀損」ではなく、「肖像権の無断使用」になるかもしれない。
「人間は弱いから群れるのではない。群れるから弱くなるのだ。」と、誰かが言った。この言葉には目から鱗が落ちまくる気分だ。またこの言葉を聞いたとき、「群れる」ことと「匿名にする」ことには、自分の行動や言動への責任を回避しようとする点で相通じるものがあるのではないかと思えた。正面切ってはものも言えず、一人では何もできないばかりか疑問に思うことも答えを出すことさえも回避して、自分自身を引き受けることができない脆弱なメンタリティー。そもそも人間なんて誰だって弱いし、自意識過剰な一面もあって当り前なのに、それを認めたくない、でもカッコもつけたい、というエゴが常に心の中に頭をもたげている。
***さて、少しはミュージシャンらしく、この辺で久しぶりに楽器の話でもしてみようかな...。
先月15日、カナダ・ケベック州のモントリオールから車で約2時間北のスキーリゾートでのブルース・フェスティヴァルにジョー・ルイス・ウォーカーと出演した。これがジョーとの初顔合わせで、事前に電話連絡は交わしたものの、前もって用意されたものはジョーの最近の3枚のアルバムのみ。曲のスタイルやギター・トーンも多彩で、10枚以上の彼のリーダー・アルバムのジャケットや音楽雑誌の写真を見ると、使用するアンプやギターもケース・バイ・ケース。結局、彼がどんなサウンド・キャラクターで俺とのセッションに望んでくるのかがはっきりしたのは当日本番2時間前の現地でのサウンド・チェックが始まってからだった。ジョーはカスタム・メイドのストラト・キャスターをフェスティヴァル側が用意した(バック・ライン)マーシャルJCM800に直で繋いだ。俺は、というと、こういうシチュエーションのためにデザインしたとも言えそうなXotic“HIRO”Teleを、バック・ラインの中にあった日頃から馴染みの深いフェンダー・ブルース・デ・ヴィル4x10に繋いだ。
基本的に俺はハムバッカー弾きなので、ハムバッカーの長所を出来るだけ引き出せるようにと、このギターはメイプル・トップ、マホ・バック、マホ・ネックにローズ・ウッドと、ギブソン・レスポールをベースに作ってあり、ただ全体的なトーンをややカラリとさせるために、トップのメイプルをフラットにしてある。
結果的にどこまでこれらの試行錯誤が功を奏したのかはわからないが、このギターのハム・バッカー・トーンは、ハム・バッカーの太く粘りのあるトーン・キャラクターを保ちながら、輪郭がとてもはっきりしていて音の立ち上がりがスムーズで、リズム・プレーでの音作りがとても楽だ。そしてこれら二つのハム・バッカーのワイアリングを工夫する事で2種類の違ったシングル・コイル(ハーフ・トーン)が生まれるようになっており、ミドルのストラト・ピックアップを加えれば合計で3種類の全く違った純正のシングル・コイル・トーンが創れる。二人の全く違ったギタリストの個性が二つの全く違ったギター・トーンを通して自由自在にぶつかり合うダブル・ギター・バンドが好きだ。そしてほとんどぶっつけ本番という、何が起こるか全くわからない、こんなシチュエーションでの演奏では、“HIRO”Teleは俺の仕事を物凄く楽にしてくれる。
ワイアリングに手を加えた2つのハム・バッカーと1つのシングルコイル、5ポイント・ピックアップ・セレクト・スイッチ、そしてプル・トップ・ヴォリューム・ノブとプル・トップ・トーン・ノブで4種類のハム・バッカー・トーン、3種類のシングル・コイル・トーンが創れる。相当実験的に作ったギターだが、この7種類のトーンには全て重宝させてもらっている。
このギターを何故デタッチャブル・ネックにしたか、それはまたの機会に話すとして、写真ではわかりにくいが、極太ネックである。とても弾き易い。(あるギター・テックの意見では、この極太ネックこそ、音の抜けの良さの理由なのだそうだ。)これは一度慣れると逆に一般的な細いネックが非常に弾きにくくなる。実は俺も今この点で随分苦労している。
最近、ペダル・ボードはこのセッティングが多い、とは言っても、基本的にはいつも変わらない、シンプルなセッティング。BBプリアンプ、RCブースター、良いです。
蛇足
その後、ジョー・ルイス・ウォーカーとペンシルヴァニアでの大きなフェスティヴァルに参加したとき、思わぬハプニングが起こった。サウンド・チェックでは全く問題がなかったのに、本番の一曲目が始まるや否やペダル・ボードのどこかが故障し、全く音が出なくなってしまったのだ。その時点ではどのエフェクターが原因なのか全くわからなかったので、しかたなくギターをアンプに直で繋ぎ、急をしのいだ。このハプニングのおかげで改めて痛感したことがある。エフェクターがギターの音をいかに劣化させているか、である。「アンプ直」のトーンはなんとリッチで暖かいことか!
XoticからX-Blenderというループが出たらしい。いまから楽しみだ。
Aug.01,2006
HIRO SUZUKI
http://www.hirosuzuki.com/
http://www.myspace.com/hirosuzuki
ヒロ鈴木の映像はこちら
投稿者 admin : 2006年08月05日 10:16