ニューヨークみたいな街に10年やそこらゴニョゴニョ住んでいると、思いがけない場所で思いがけない人と思いがけない出会い方をするなんて事が時々ある。子供の頃に憧れたスーパースターが、突然自分の目前に現れる、なんてことも2、3度あったような気がする。 俺にとっての「憧れのスーパースター」達のほとんどは、既に他界してしまったか、あるいは、もう軒並み「オールドスクール」と呼ばれるジェネレーションに両足を突っ込んでしまったかのどちらかで、仮にそんな「オールドスクール」達と突然出会ったとしても、脳裏に焼き付いた若かりし頃の強烈な印象との大きな差に、それが当人だという事さえ気付かない、そんなことも良く聞く話だ。ただ、それはあくまでも視覚に頼った時の話、聴覚を通すとちょっと話しは違って来る。 これは確か、5年位前、マンハッタンのアッパーウエストにある小さなバーで、サムテイラー という年配のブルースマンとセッションした時の事。この サム テイラー、彼のショーの客席にはいつも60、70年代の往年のミュージシャン達の顔が多数見かけられるという、そんな知る人ぞ知る、ミュージシャンズミュージシャンのブルーズマン。その晩も、客席には、名だたる業界OB、ヤングラスカルズの元メンバー達等々がうろちょろ大騒ぎをしていた。 ある俺のソロの後、客の拍手の中から、やたらでかくて図太くてちょっとハイトーンの声で「イェーイ!」って声が聞こえた。妙に聴きなれた「イェーイ!」だと思い、声の方向を見ると、身体はデカイくせに妙に頬が痩せこけ、眼光だけが気味悪い位に鋭い男が、客席の後ろの方から俺を睨み付けていた。ショーが終わった後、その男はずかずかとステージの上に上がってきて、酒臭い声で「おい、俺にも弾かせろ!」って、俺のギターでいきなりスライドギター弾き始めた。後片付けで忙しい事なんかぜーんぜんお構い無しに、俺の小さなアンぺグ アンプをフルアップにして、「おい、ヒロ、こんな小さなアンプじゃ駄目なんだよ!おまえ、クロスローダー知ってるか?」とか言いながら、うるせーなんてもんじゃない。 でも、そのギターのトーンを耳にした途端、背筋に寒気が走った。その男が誰だかがはっきりと解った。マウンテンの巨漢ギタリスト、レズリー ウエスト。正真正銘のマウンテンの、あの「音」。一通り弾きおえたレズリーは、「マーシャルが俺のアンプをデザインしてるんだ。届いたらおまえにも弾かせてやる。」って、自信満々の顔と酒臭い息で、たかびしゃに俺に耳打ちして、いつのまにかNYの夜の街に消えてしまった。 「ウエスタンのテーマ」だったけ?ウッドストックのサントラ盤の二枚組みの方に入ってたのは。あのトーン。レズリーウエストが歳食ってどんなに痩せこけても、あのトーンは全然変っていなかった。凄いな、トーンが全てをフラッシュバックさせる。あの頃、俺が何を考え、何に腹を立て、何を追いかけていたか。不器用でぶっきらぼうで、ザッラザラの粗削りだけど、トーンにこだわるミュージシャン、今、他に誰がいるだろう? ヒロ鈴木はデボラ・コールマン(Deborah
Coleman)バンドのリズムギタリスト。 今までのコラムはこちら。
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