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2013年8月11日
第60回 コンプレッサーとリバーブ
PCIの皆さん、どうもご無沙汰です。 前回投稿してから例のミュージカルのレコーディングの進行具合をお知らせするつもりだったんですが、昼間の仕事の方がべらぼうに忙しくなりちょっとミックスを始めるまで時間がかかってしまいました。
今回はドラムとストリングベース、チェロとフルートとアコギと、アレンジはアコースティック限定でシンプルなんですが、シンプルなだけに実は全部細部まで聴こえてしまうので、いつものロックなプロダクションよりもやることが限られてしまうというか、あまりミックスで音を変えないようにしなければいけないということに気づきました。
ちょっと日本語で言い表すのが難しいんですが、例えば僕はEQは3dB一単位と考え、ブーストするよりもカットする方を優先するという、まあ基本的なテクニックを(どこで読んだのか覚えてないんですが)いつもベースに考えているんですが、今回なんかは特にこれが当てはまるのです。 なぜかというと、EQでどこかの周波数をブーストするということは、機械的に音に何かを「足す」ことになり、それをやり過ぎてしまうとはっきりいって音が自然に聞こえるわけがないわけなんですね。 でもそこにあるものを削るという行為の方は、ないものを足すよりは物理的に簡単で、結果もより自然に近く聞こえるわけです。
コンプレッサーなんかもそうですね。僕のミックスの基本としては、コンプレッサーとリバーブは選択肢が多いとよいと思っているんです。 基本的には本当の意味でのクラシック音楽でない限り、現代の音楽のレコーディングというのは現実に鳴っている楽器の音の強弱の範囲を狭めないと良く聞こえないというのが根本のコンセプトとしてあります。 で、コンプレッサーというのはその音の強弱の範囲を狭めてくれるツールで、音の大きいところを「つぶす」ことにより、音の小さいところがより大きく聞こえるようにしてくれて、全体に統一感のあるようにしてくれるわけです。 でも、この「つぶす」部分、やはり元の音を変えてしまうわけで、どうしてもやり過ぎるとすぐに音が本来の自然な音ではなくなってしまう。 というか、やはり普通のポップやロックなプロダクションではこのコンプレッサーによって変えられた音が実は普通に聞こえるので、コンプレッサーを幾つか用いて楽器の本来の音を少しか(それとも少なからず)「変えて」いくのがミックスの過程の一部なわけなんです。
でも今回はアコースティックだけの音楽なので、実はコンプレッサーによる音質の変化が聞こえてしまうと、本来の自然な感じが損なわれてしまう。 ので、いつもよりコンプレッサーかけず、またかけてもそれによって音が変わらない程度に、ほんとに手加減してかける。 そんな風にしています。 最初はその手加減が難しいというか、その感覚に慣れるまでちょっとかかりましたが、その基調となり音作りができてしまうと、後はどの曲も結局は楽器は同じですから、それにちょっとバリエーションを加えるだけなので早く進みそうです。
ただ例外として、こういう状況で実はバッチリ聞こえてしまうのがリバーブ。 僕は普段はドライな音が好きでリバーブは聞こえない程度にかけるのが普通なのですが、今回は音の間が一杯空いていますし、そういうわけにはいきません。 でもリバーブのプラグインだけにかけられるお金は限られているので、安価でしかも自然な感じのリバーブを求めて幾つも試してみましたが、最終的にはIK Multimedia のClassik Studio Reverbのプレートに決めました。 他のリバーブはどうもいかにもデジタル、という非常に近代的に聞こえてしまうことが多く、でも僕はコンボルーションのは使い心地良くないので、いかにもビンテージというか古い音ではないのですが、やはり落ち着いた音でしっくりくるのを探していたらこれになりました。 いや、しっかり聞こえても嫌に感じないリバーブははっきりいって初めてで、嬉しいです。
というわけでミックス現在進行中ですが、もう数週間で皆さんにお聞かせできるかも? というところです。 請うご期待。(?)
さて、話が変わりますが、コンプレッサーといえばPCIからXoticのSP Comressorを送って頂きました。 これはスゴいコンプです! 僕は基本的にはシングルコイル弾きなのでコンプレッサーでは苦労してるというか、上記のように音の強弱の差が激しいローアウトプットのシングルコイルをロックで使うのにはコンプが要るというのが持論なんですが、試しても試しても音の変わってしまうコンプばかりなんですね。 ある物は高音や音の輪郭が損なわれてしまうし、他のはそれを補うように高音をブーストしてしまってシングルコイルではキンキンした音になってしまう。 アタックタイムなんか調節してみてもなかなか思うようにいかないし。 という感じではっきりいって長年これは一つ手元に、というものに巡り会えなかったのですが、このSPはそんな僕にピッタリな素晴らしいコンプです。
まずこのペダルのブレンド機能。 他のペダルのブレンドって何だか調節しても思ったような効き具合になったことないのですが、SPのブレンドは本当にただシンプルに、片っ方に回すとコンプかかってない音が大きくなり、反対に回すとコンプかかり気味の音が、と思い通りに操作してくれます。 コンプの問題はアタックをつぶし過ぎると音の輪郭が失われてしまい、リズム弾きなんかでギターがミックスに埋もれてしまって全然リズム感出せなくなってしまうところにあるので、ブレンドがない時はせめてアタックタイムを調節して音の最初の部分をつぶさないようにすることでそれを防ぎますが、でもそれでも自然に感じる音にはならないものです。 でもこのブレンド機能があると、コンプのかかってないアタックだけがコンプのかかっている音の中からポッと頭を出すような感じにバランスをとれるので、本当の意味で「音の強弱を調節してサスティンを稼ぐ」というギターのコンプレッサーの役目を、しかし音質をほとんど変えないでやってのけてくれます。
コンプレッサーのかかり具合は小さなスイッチで弱、中、強と選択できますが、この変わり具合もうまく設定されていて、微調節の効くダイアルでなくても全く問題ありません。 高音も低音も生の音が損なわれないないので他のコンプみたくトーンのダイアルはいりませんし、かといって透明なエフェクトでなくいかにもコンプのかかったエフェクトとしても使える(コンプを強にしてブレンドをコンプ側に設定)ということ。 そしてペダルボードのスペースをとらないこの小ささ。 長年僕が探していた理想のコンプレッサーといっても過言ではありません。
一緒にEP Boosterも送って頂きまして、これも音質の変わらない素晴らしいブースターですが、僕はブースターではなくコンプやオーバードライブでブーストしたいので僕にとってはSP Compressorが僕の要求にしっかりマッチしてくれてとても感激でした。 最近はアコギの音楽がほとんどなのが残念です。 でもアコギでもギグの時はSP 使えると思いますけどね。 これほど音質の変わらないコンプですから。
いつも現在進行形のペダルボードです。 最近エレキでのギグがないのでどうも「完成」させる理由がないというか。 でもペダル大好き人間なのでいつも色々試しています。 でも右のGeorge Dennis Parametric Wahはもう何年も使ってますし、結局自分にしっかりくるものが見つかったらいじらないこともありますから、今度のSPもそういう風になりそうな気が。
あと最近Facebook(Ari Koinuma)とTwitter (@arikoinuma) も日英両方でやり始めました。 お気軽にfollowやfriend requestして下さい。
ではまた次回に。
投稿者 ari : 2013年8月11日 06:49