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2008年6月14日

第15回 練習の目標(2) 自己表現するためには

さて、前回の続き、練習することの目的の話です。

2 自由に自己表現できるようになること

これは楽器奏者にとっては本当の究極です。 自分が今感じている感情を楽器を通して表現し、お客さんにも感じてもらう。 これが理想です。 

この域に達するのは何がいるのか。  

高度な技術だ、といいたくなりますが、必ずしもそうではないんです。

日本語には「ヘタウマ」という言い方がありますね。 高度な技術がない、ごくごくシンプルなものを弾いているんだけど、なぜかツボをついていて聴いていてグッとくるものがある。 時には間違いだらけの演奏なんだけど、不思議に間違いも含めて引き入れられてしまう。

これができる人はこの第2のゴールに達しているといえますね。

自己表現ができる、ということはすなわち、自分の楽器を通して言いたいことがいえる、ということ。

これができるようになるには、その楽器の奏者としての自分に揺らぎない自信があるということが根本にあります。

「自信がある」というのはちょっと実は正確でないですね。 英語でいうとYou have to be comfortable with your instrumentといいますが、要するに自分の楽器を自分の一部として何の支障や障害もなく使えるようになるということです。

もちろん大抵の人はこの域に達するには技術がいります。 言葉の例をまた使うと、毎文毎文辞書を使って使うべき言葉をひいているようでは自己表現にはならないでしょう? 喋るという行為を通して感情まで伝えるということは無理です。 必要な知識が全て身に付いていて始めて本当に自己を表現できるようになるんです。

でも中には実は単語を間違えていても気合いと押しでとにかくそれらしい言葉をつなげてまくしたてて何とかコミュニケーションとってしまう人もいます。 こういう人たちは技術のなさを度胸とか器量でカバーして、自己表現の域へその合計で達してしまうんですね。

ポピュラーミュージックで面白いのはこれが可能なことにあるんです。 

ブルースなんかその最たる例で、速弾きができたらいいブルースが弾けるかというとそんなことは全くありません。 (速くひいたらブルースでないと間違った考えを持ってる人もいますけど) 必要最低限の音数や技術で多いに表現することができますし、間違いだらけでも感情がビンビン伝わって来る演奏をすることは充分可能です。

Neil Youngなんかは(失礼ですが)ヘタウマの例としてあげられるかと思うんですが、彼なんかも技術でなくてどっちかというと気合いで(笑)自己表現する人ですね。 でも彼なんかはどんなハイテクニックの人との共演でもどこ吹く風で自分の演奏をすると思います。 フィーリングたっぷりの演奏を。

自己表現するためには、どこで誰と何のために演奏するんでも全く揺るぎない自信がいるんです。 

ほとんどの人は高度の技術を極め、色々な演奏機会を体験し、長い練習を経てこの自信を得ますね。でもそれだけがその域への道ではないですし、それだけでは駄目なこともあります。

要するに自分に自信が持てない人はどんなに練習してもその域には達せないし、逆に自信いっぱいの人はあんまり練習しなくてもどんどん人の心を打つ演奏し始めてしまいます。

ですから練習も自信につながるという焦点からすること。 また楽器の練習以外のその他全面の人生も関わってるということを認識すること。 これが大事です。

これまた勘違いしないでほしいのですが、自信を持ってれば何でも弾けるとかそういう話ではないんです。 どんなに自信過剰な人でも一昼夜でSteve Vaiみたいに弾けるかというとそれは無理でしょう。 でも膨大な自信を武器にVaiと同じくらいインパクトのある演奏することは可能です。 その人なりの弾き方で。 Vaiが百音弾く時間に一音しか弾かないスタイルかもしれません。 でも自信が充分ある人はそれで自己表現できてしまいます。

演奏者としての自分に自信を持つということは練習も含めた人生の姿勢全てが関わってきます。 自分は自分のままでいいんだ、という風にありのままの自分を受け入れ、好きになる。 これができる人はいい音楽を創れるようになるまでの道もより短かくなるでしょう。 そう感じられるにはどうしたらいいのかというのはちょっと人それぞれですし、それだけで一冊の本になってしまいますからここでは言及しませんけど、とにかくこの目的を達成しないと、本当の意味でのいい演奏はできるようになりません、ということだけはわかってもらいたいと思います。

最後にまとめると、練習をいっくら精進しても、この2つの大きな目標を見失っているといい演奏家になり、それを継続させるのははっきりいって不可能です。 まず楽しくやること。 それから自己表現できること。 この2つを常にできるようになったら、技術レベルがどの程度であろうとも、今弾ける範囲のものを使っていい音楽を創れるようになるでしょう。

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投稿者 ari : 2008年6月14日 20:13