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2008年5月16日

第12回 群衆の中で

最近地元のラジオ局がいらないCDをただで配っているイベントがあったので参加してきました。

このラジオ局はかなり色々なジャンルの音楽をかけるので有名だったので、アーティストやプロモーター達から送られて来るCDもバライエティーに富んでいました。 しかしその数の多いこと! 数千枚のCD、それもほとんどが全く聴いたことのないアーティストばかりです。 ジャケットの好みで選ぶほかはありません。 幸いなことに3日間のイベントで、持って帰って聴いてみて、気に入らかったら返せばいいというので、試聴しまくった結果けっこう掘り出し物を見つけました。 

そんな中から得た教訓を今回は幾つか。

まず第一に、これだけの大量の音楽が氾濫している現代では、ジャケットやバンド名、アルバムの題名などだけで客の注意を惹こうというのはちょっと無理な話です。 相当に奇抜なものなら話は別ですが、でも奇抜であるということをアピールするとそういうものに興味があるお客しか聴いてくれませんし、見かけ倒れになる可能性もあります。 

それよりジャケットやデザインは、アーティストの音楽性のジャンル、個性を的確に反映したものであるべきだと考えます。 

例えばブルースのレコードだったらビンテージっぽいギターを抱えたアーティストの写真をジャケットに使うとか。 フォークだったら自然をモチーフに静かな感じのデザインにするとか。 テクノ系だったら無機質で機械的な印象、というような感じですか? 

アーティストが勝負するのは音楽ですから、ジャケットであんまり「形」から外れて、見ただけではどんな音楽か全く想像もつかないというのはどうかと思います。 デザインやイメージなどはマーケティングの一角ですから、ここで独創性を追求するのは「すでに確立されたジャンルの形式内で」ということにする方がいいと思います。

ただ思ったのは、ブルース、カントリー、フォークなどはかなり明確にどんなイメージやジャケットが期待されているのかわかるんですが、いわゆるアートロックはそれが非常に不明確だということ。 Nirvanaのジャケットなんかももしこれが聴いたこともないバンドだったらジャケットを見ただけではどんな音楽なのか見当もつかないと思います。 僕のCDもそうで、自分の音楽を視覚的に表現し、なおかつ独特のスタイルをつくるという点では成功したほうだな、と自己満足してるんですが、この「ジャケットを見ただけでは音楽性がわからない」というジャンル独特の弱点にも見事にはまってしまったような気がします。

あともう一つは、視覚的にこのアーティストはすでに「成功している」という雰囲気をかもしだすこと。 これはかけられるお金によるので自分のできる範囲でやるしかないんですが、それでも自主出版でもしっかりレコード会社としての名前をつくって、ロゴもつくって、意味がなくても商品に番号なんかつけたりして、情報の範囲だけではメジャーのCDと同じようにするといいと思います。 いかにも低予算で個人でやっているという感じがしてはそれだけで客の興味を失ってしまいます。 僕のポリシーとしては「嘘は駄目。 でもハッタリはOK」と考えています。 何でもかんでもバカ正直にやる必要はありません。 自分の商品もメジャーのものにひけをとらないと信じて、見かけも同じレベルの情報量でできるだけ「これはすでに成功しているアーティストの作品」というメッセージを世界に投影するべきだと思います。 

最後に思うのは、これだけ大量の音楽に面すると、どうしてもついつい「こんなたくさんある中から自分の音楽が頭角を表すのはとても無理だ」と考えてしまうこと。 

確かにCD屋さんなんかでごまんとあるCDの中から一枚、自分の音楽を見つけてもらうというのは無理な期待でしょう。

でも音楽の素晴らしいのは人によって好みが本当に多様化しているということ。 音楽ほど人それぞれ好みが違う芸術もないと思います。 「これはひどい」と自分で思っても隣の人は大好きであるということなんですね。 

音楽を追求するので大事なのはできるだけ多くの人、万人に好いてもらうことではなくて、自分の音楽を好きで好きでたまらないコアのファン層を、自分の活動を継続させていけるだけの数を見つければいいということなんですね。 独創性をしっかり煮詰めて、世界中で自分にしかできないという音楽がつくれるようになったら、後は一人一人ファンを見つけていけばいいんです。 

ですから現代の音楽のマーケティングへのアプローチは、Mass(全体)よりNiche(少数)へ焦点を絞った方向へと動きつつあります。 全国大ヒットを探すんではなくて、もっとマニアックなリスナーに訴えるわけですね。 

例えば略語でRIYLという言葉があります。Recommended If You Like の略で、要するに新人を売り込むときに「このアーティストが好きな人にお勧め」という風に伝えるわけですね。 で、このRIYLにはかなり有名なアーティストの名前を使うことが以前は多かったんですが、最近ではこの項に載っているアーティストの名前もマニアックすぎて聞いたことがない連中ばかり、ということが多いです。 でもあえてそうすることによって、多くのカジュアルな(熱心でない)ファンより少数の熱心なファンを獲得することができるわけですね。

やっぱり最終的に大事なのは、世界で唯一無二の音楽をつくること。それができたら、絶対この広い世界のどこかにはそれを好きになってくれる人々がいますから、そういう人たちを探し当てればいいんです。 簡単なことではないですけど、不可能でもないです。 現にそうやって活動を反映させているアーティストがいっぱいいるわけですからね。

機材の安価化により、これからより多くの音楽が世間に氾濫するようになるでしょう。 しかし、本当に独特の個性を確立しているアーティストは決して多くありません。 自分の信じている音楽を楽しく創りながら、じっくりとやっていけばきっと道は開けるもの、と僕は信じてやっています。

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投稿者 ari : 2008年5月16日 08:20