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2008年2月18日

第6回 必殺技

いつだったかどこだったか覚えてないんですが、以前野球の記事で、日本とアメリカの打者のフォームの違いについての考察を読んだことがあります。

話の主旨は、日本では基本を大事にするため悪いとみなされるフォームは早いうちに修正されるため、みなほぼ均等に似たような打ち方をするようになるんですが、アメリカではその辺もっと野放しなので、個性的なフォームで打つ選手が多い、という話でした。

日本の教育というか美学は一般に「長所を伸ばす」より「短所をなくす」ことに重点をおきがちです。 なので皆均等に一通りできるようになるんですけど、強烈な個性、特にアンバランスになってでもある一面だけを追求するという人は少ないです。 

僕ももう20年近くギターをやってるんですが、その大半を「あれもできない、これもできない」と思いながら弾いてきました。 プロになるならこれくらい弾けないと、とかいう固定観念があるんですね。

セッションやサポートのミュージシャンでやっていくのでは確かにそういえないこともないです。 でもこっちの国で重視されるのは(もううるさいほど言われてることなんですが)やっぱり個性。 セッションなんかでやっていても特技を持つ人がその特技を買われて雇われることもあるわけですから、万能タイプでなくてもその強烈な個性があれば雇われるわけです。

要するに弱点をなくすんではなくて、逆に弱点というか苦手なことはほっといても自分の長所、つまり「必殺技」をとにかくとことん磨くという方法ですね。

どっちがいいとか悪いとかいう話ではないんですが、でもオリジナルアーティストを目指すんでしたら長所傾向の方が適してることは間違いない、というのが僕の持論です。

僕も実はアルバム一つ出してからようやく吹っ切れて、自分で「弾けない」ことの心配をしなくなりました。

それは何故かというと、自分で納得のいく演奏ができたからです。 

勘違いしないで欲しいんですが、向上心がなくなったというわけでは全くありません。 ギターで表現したいことはまだまだありますし、弾きたいけど弾けないことも山ほど。

でもないものづくしを掘り出してみたところで始まりません。 人生全般にいえることですが、とにかくできることに集中する。

自分の演奏に話を戻しますと、僕のアルバムでのギターパートはプロダクションの中でも最も満足度が高いんです。 まだトーンに関して言えば60%くらいかな、というわけで及第点そこそこというところですが、しかし演奏に関しては文句なし、とまではいきませんが自分というギタリストの個性がよくでていると感じています。 適度に間違いも入っていて人間くさいですし。(笑)

ギタリストとしての独創性を確立する、という目標がアルバム制作の時点であったんですが、それが達成できたので、弾けないことに目がいって自信がなくなるということがなくなったんですね。 自分にはこれがある、というような感じで。

長所を確認することによって、ギタリストとしての立場を確保した、といえるかもしれません。

具体的には、僕は自分の長所は

  1. リズムギター、特にカッティング。 躍動感というか前がかりでエネルギッシュなリズムギターは自分の持ち手の中でも一番気に入っている分野です。
  2. ヴィブラート。 これはアルバムのソロに如実に出ているかといえばそうでもないかもしれないんですけど、とにかく自分では割と激しく情熱的なヴィブラートを築き上げたと思っています。 長年の課題だったチョーキングしながらのヴィブラートも軽くできるようになりましたし。今後はもっとコントロールの範囲を広げて、速度や幅の調節などできるようになり、いわゆる大きくて激しい揺れ以外のものもマスターしたいです。
  3. 個性的なコードとコード進行。 これは演奏ではなくて曲作りの方に入るんですが、攻撃的なロックではあまりみかけないコードやコード進行を意識して追求しているので、新鮮な響きになっていると思っています。 コードというのは言葉で言うと単語みたいなものですから、人が普段使わない言葉を会話や文章に取り入れると個性的になるのと同じなわけです。

などがあると思っています。 他にもオクターブ奏法、フレーズの区切りの明確なフレージングなどもっと追求すれば「必殺技」クラスまで昇格できそうな分野があります。

逆に全く駄目なのであきらめた分野には速弾き(特にフル·ピッキングの速弾き)とか正確無比の演奏などがあります。 前者は長年僕の中ではうまいロックギタリスト=速弾きという図式ができあがっていたのでかなり重荷になっていましたし、後者もこれは性格のせいか、どんなに簡単なパートでもどっかこっか毎回間違える(というか正確でない)のでもうお手上げすることにしました。 機械のように正確な演奏をするギタリストが必要でしたら僕は呼ばないで下さい、ということですね。 (笑) 

でも吹っ切れてギターを弾くのがとても楽しくなりました。 他の人にできて自分にはできないことは星の数のようにあるんですが、でも他の人では同じにできないことが数個できたのでそれにかけることにしました。

日本ではどうだか知りませんが、こちらではとにかく強烈な必殺技が認められます。 それは時には演奏技術の高さとは別物。 トーンだったり、フレージングだったり、リズム感だったり。

日本には忍耐や努力、困難の克服などを重んじる美学がありますし、それはそれで素晴らしいことです。 でも人間誰でも弱点と向き合うより自分が好きで得意なことをやっている方が楽しいですし、楽しくやっているとまた上達も早いわけです。

「誰それのように弾けない」とか「ギタリストだったらこれくらいひけないと」と思って悩んでいるようでしたら、一度肩に力を抜いて、自分にできることを見直してみるといいかもしれません。

思いかけぬ発見があるかもしれませんよ。

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投稿者 ari : 2008年2月18日 20:45