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2007年12月 7日

第3回 ビジネス·プラン

僕の友人、またクライアントでもあるMarc Gunnをご紹介しましょう。 彼は今35歳で、職業はミュージシャン。 しかもケルティック·フォーク、つまりアイルランドやスコットランド民謡の専門家。 彼は相棒とBrobdingnagian Bards(どう発音するのかはきかないで下さい。 笑)というケルティック·フォーク·デュオを組み、アメリカ各地で開催されるルネサスンス·フェスティバル、Sci-Fi(SF) コンベンション(これらがいったいどういう催し物なのかはここでは説明しませんが、気になるかたはリサーチしてみるか僕に一報下さい)などで演奏し、その他ケルティック民謡専門のインディー·レーベルを運営するなど多彩に活動しながら、それで生きる糧を稼いでいます。 彼が現状の音楽活動を始めてから、day job(昼間の仕事、つまり我々ミュージシャンが音楽では収入にならないため、代わりにするアルバイトや職業のこと)を辞めて自立するまで6年かかりました。 

Marc Gunn
Marc Gunnの最新アルバム、A Tribute to Love

ピアニストDavid Nevueもジャンルは違えど似たような経歴があります。彼はもともとIT業界で働いていたんですが、かねてより好きだったピアノの作曲をCDとして売り始めたのが93年。 95年にはホームページを立ててオンラインで売り始め、2001年には仕事を退職。 その後は音楽と関連事業で生計を立てています。 彼の2006年のネット事業からの収入が60000ドルだったそうです。これはオンラインでのCDのセールス、また関連商品や音楽ビジネスの本の売り上げなどを含めますが、ライブなどネットを通して入ってこない収入は含まないそうです。

David Nevue
David Nevue の最新アルバム、Adoration

もう一つ例えをあげましょう。 今カナダ、モントリオールから売り出し中のYour Favorite Enemiesというバンドがいます。 彼らはいわゆる若者向けのモダン·ロックで、Rage Against the Machineのように政治的、また良心的なメッセージをイメージの中核に置き、現状の形態で活動を始めたのが2004年。彼らはライブも近辺の都市ではするものの、MySpaceでのプロモーションを中心にすえ、全てのフレンドからのコメントやメッセージに個人的に応え、アーティストとファンの間の人間関係を誠実に、個人的なものにするということをモットーにしているそうです。 まだレーベルに契約されていないにも関わらず、MySpaceでのファン·コミュニティーが飛躍的に拡大。 2007年にはファンからの要望に応えて自主でミニ·アルバムを発表したところ、六ヶ月で20000枚に到達する売り上げを記録しました。 僕も今年の夏、なんと日本に一時帰国していたときに友人の紹介でリードヴォーカルのAlexと小一時間話をする機会が会ったのですが、本当に誠実で相手のことを気にかけてくれる人で、最初は半信半疑だった僕もその会話と、その後のメール交換ですっかりファンになりました。 音楽とそれを創る人は必ずしも同じにはとらえられませんが、この場合は彼らの優れた人間性もアーティストの魅力として多いにその成功に貢献していると言わざるをえません。

Your Favorite Enemies
Your Favorite Enemies

さて、僕が彼らから何を学んだのか。 

それは、英語圏で音楽をネット·ビジネスとして追求するところに自分の成功
への道がある、ということ。

僕の「成功」の定義は有名になることでもなければラジオやテレビに出演することでもありません。 僕のまず第一の目標は、day jobが要らない、そしてその代わりに毎日音楽をやれる環境を作りだすことなんです。 

そして、僕の周りにはそれを現実にやっている人たちがいます。 彼らの成功から学ぶことは幾らでもあります。 また、僕はたまたまコンピューター関係に強く、今もネット業者で糧を稼いでいる人間です。 上記の人たちの中には他の業者をやとってホームページなど作り管理している人もいますが、僕はそれが自分でできるわけです。

また、日本でいると見えてこない現実としては、英語圏、特にアメリカではすでにインディーミュージックが列記とした業界として成立していて、自力で音楽をやっているミュージシャンたちをサポートする事業が確立されているということ。 要するに自主でやっているミュージシャンがごまんといるので、それを相手にする商売をやって儲かるわけです。 彼らの活動をサポートすることにより自らも反映している事業は幾らでもあります。 CD製造業者、レコーディングスタジオ、マスタリングエンジニア、インディー専門のCD販売店、音楽をデジタル配布する業者、などです。 彼らのサービスを利用すれば、誰でも比較的手軽にCDやMP3を売りに出し、レコーディングアーティストとしての活動を始めることができます。

しかし、音楽を始めるということへの障害が取り除かれたぶん、猫も杓子も音楽を発表するという飽和状態ができあがり、MySpaceなどはミュージシャンでごったがえしているのが現状です。 あまりにも数が多すぎてリスナーの方もどうやっていいアーティストを探していいのかわからないわけです。

そういう下等競争の中からどうやって頭角を表し、糧を稼げるようになるまでに活動を拡大させるのか。

それはこの3点につきます。


  1. 独創性の追求

  2. 音楽活動をしっかりとビジネスとして運営すること

  3. 長期的に持続させること

とこう書いてしまうと単純に聞こえるでしょう? しかし数多にあるインディーミュージシャンの中で、上記3点を全て持っているアーティストは確率としては非常に低いです。 どれも実は非常に難しいことなんですね。

独創性とは、他には見られない強烈な個性のこと。 アメリカではこれは評価の肝になります。 ただ単純に奇抜なものをやるのでは長続きしません。 そうでなくて、アーティスト本人が他とは違う個性を持っており、それを素直に反映した音楽にはやはり独特のものがあるということです。 もちろん楽曲のクオリティーももちろん高くなくてはいけない。 考えてみれば全く同じ人間は二人いないわけですから、独創性とはみんなが持っているはず。しかし、様々な影響を受けて消化し、自分のオリジナルなスタイルとして煮詰めてそれを楽曲と演奏に反映させるのは一昼夜でできることではありません。

また、音楽をビジネスとして経営すること、これも難しい。 自営業は何をやっても大変です。 しかしレストランでも何でも、成功している人を見つけることは難しくありません。 英語圏ではアーティストがマネージメントやレーベルに発掘されてスターになるといった夢物語はとうの昔にすたれて現実味を失っていますが、その代わりにあるのは「音楽では食べていけない」といった漠然とした不信感です。 僕も頻繁にそういうメッセージを受けます。 でも、すぐれた料理をするシェフがレストランを経営して成功するのが不可能でないのと同じで、すぐれた音楽を創るミュージシャンがそれを売る商売で成功するのが不可能なことはありません。 いい音楽への需要というのはいつの時代もなくならないものです。 でもいい料理をするだけでなく、レストランを運営するというのは自営業何者でもありません。 いいシェフだって経営で失敗することはあるでしょうし、料理の腕前は中の上くらいでも経営がうまくて成功する人もいるでしょう。 音楽も同じです。 ただうまく弾けていい曲が書けるだけでは駄目なんです。 幸いなことに運営というのは誰でも学んで習得できるものですけどね。

最後、継続力。これも難しい。上記の3例のうち2人は活動を開始してから自立するまで6年かかっています。 6年地道にしっかりと独創性ある音楽を作ってそれをしっかり自営業として売り、なおかつday jobもこなして継続させる。 こんなことができるバンドは少ないでしょう。 しかしそれができるアーティストには自立という褒美が最後に待っています。 アルバムも一枚やそこらでは全く火がつきませんが、3枚、4枚となると話が違います。 物事は積み重ねですから、最初は月一枚しか売れなかったCDも5年後には月300枚、ということになれる可能性もあるわけです。 (これに関しては、先日書いた神経衰弱を例えにしたブログも読んで下さい)いったいどれくらい時間がかかるものか、それは誰にも予想がつきませんが、僕は向こう10年くらいかかるものと見て活動しています。 10年間水をやり、肥やしをやり、精魂込めて手入れしてやっと芽が出る種のようなものです。 科学的には10年後に絶対芽が出ると証明されていても、それだけで長いことやるその道中には「本当に芽が出るのかな」と思うことも少なくないでしょう。 きっと芽が出ると信念を毎日持ち直してやらなくてはいけません。

僕もこれまで色々紆余曲折して現状にたどりつきましたが、やっと自分の音楽をアルバムとして発表し、今後もその活動を持続させていく体制を作るなかで、将来の展望が見えてきたような気がします。 もう30代半ばですが決して遅すぎることはありません。 上記3点の中で一番自分の意志だけで操作しにくいのが独創性だと思いますが、それ以外は誰でも意欲と決意があれば成し遂げられることです。 才能も運もへったくれもありません。 

僕は幸いなことに独創性は長年の研究(?)が実ってか、もう心配しなくてもいいところまで自分の音楽というものを確立できました。 自分だけでそう思うのでなく、現にもうリスナーの人でそこに目をつけて評価してくれている方が何人もでてきていますから、手応えはあります。 ビジネスについてもネット事業に関してはもうかなり知っていますし、今も勉強しています。 

ので後はもう覚悟をすえて、気長にやるだけ。 10年単位で継続させれば、きっと何らかの形で芽が出て、実がなってくれるものと信じています。 一人でやるのは淋しいですが(Your Favorite Enemiesがあんなに短期で成功できたのは、連中が7人編成のバンドでしかも皆ポリシーと信念を共にする安定したグループだからだと思います)、他のバンドメンバーに左右されない分自分で活動を維持することはかえってしやすいと思います。 数多くの失敗、時には進歩がないと思ったり逆戻りしたと感じたりすることもあるでしょう。 でもとにかくあせらずくじけず、どんなにヨチヨチ歩きでもやめないことに焦点を置いて頑張れば、成功できないはずはないと思います。

気が遠くなる話ですが、しかし夢があると思いません?  でも実際にはくじけるようなことと同じくらいの割合で、勇気づけてくれることもいっぱいあるんです。 だからそんなに大変ではないですね。 

また、夢というのはそれを追う時間を楽しんで生きるのが大事なのであって、実際に達成するということが肝なんではないです。 というと途中で失敗した時のいい訳をもう作ってるような気もしますが、しかしそれでもそう認識するのは大事だと思います。 結果に惚れてても過程が嫌いなことは持続できるわけがありませんから。

最後に、アルバムをリリースしてからまだ二ヶ月足らずですが、色々頂いた嬉しいコメントを幾つか載せておきます。 こういうことを言ってくれる人々のおかげで、継続させる力も湧いてくるんです。 難しいですけど、不可能ではないんですね。 希望を持って、気長にやろうと思います。 


"I really dig your music by the way. I really mean that."

"Finally I ordered your cd - two of them in fact (one for a gift for a friend). Thank you friend for your music!"

"oh..my god.

usually i cant stand when bands/musicians add me because i never end up liking their music, but you are AMAZING!!"

"I really enjoy your music! I can hear your different influences incorporated in your sound. Even though you DO have your OWN sound in YOUR music. =) "

"I must say...I clicked on Half Step and I thoroughly enjoyed the music. I can see the influence of Porcupine Tree shine through, but at the same time, I have to give you the credit that you have your own style. I'm curious as to the recording equipment that you use. The sound quality is simply amazing! The composition is superb. "

"Wow! Man! I listened to the album, and it's fantastic. Nice edge to it. The first songs in particular has a very contemporary sound. I was having trouble placing influences on those. Reminiscent of early 90s Alt Rock. If you like STP or Soundgarden, you'll love this CD."

"Once again I'm amazed what a talented composer / musician can do with a modest home recording studio. This sounds like a full band, but it's all Ari, his guitars and his gadgets! I like complicated music, and this disc has lots of details, creative touches and unexpected twists that pleasantly surprise me and keep my interest through repeated playings."

"In this cd, Ari has created a musical buffet sure to please, dishing up rock, thrash, metal, and ballads with his own unique perspective. Everyone will find something to like here and most will want to put this cd on permanent rotation. The haunting "Cult" is my particular favorite, if one can choose from this outstanding collection. Ari can twist your emotions any way he pleases and after listening to "Darkness Reveals the Beauty of Truth", you'll be more than happy to succumb to his spell again and again."

"You can hear all the influences, but this music is truly ari. There's no cliches here, which is so refreshing. Yes, there's acoustic guitar, and heavy guitar, this music rocks and challenges and yet doesn't sound like all of the clone-sound-alike bands on the radio these days. There's rockers here, and ballads. The lyrics are thought-provoking, not mindless. The music breathes, there's an ebb and flow, it's not verse/chorus/verse music by numbers. The weak point might be Ari's voice, but after a few listens you get past it (which happens with a lot of singers anyway, doesn't it?). Lots to capture your attention here folks."

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投稿者 ari : 2007年12月 7日 07:10